2023年6月 3日 (土)

『となりの怪異談 身近なゾッとする話』(小林薫・ぶんか社)の感想

 コミック『となりの怪異談 身近なゾッとする話』(小林薫・ぶんか社)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 この本、私は先月に読了していたのですが、なぜこんなに感想アップが遅くなったかといいますと。
 夜に、あらためて目を通すのが怖いから! です。
 怖いもの好きで、耐性のあるはずの私がこうですから、苦手な方はご注意ください。
 まあ、表紙からして、かなり……ですから。

 あらすじというか、中味を説明いたしますと、様々な場所、年齢、職業の方々(たぶん雑誌の投稿者?)による、怖い体験談を漫画化されたものです。
 ほぼ2ページと、シンプルかつ簡潔にまとめられていますから、どこから読んでもおもしろく、しかも総数が90を越えているという、充実した内容です。
 その怖い体験の分類は、心霊的なものが大半ですが、中には不可解? なものもあり、お笑いオチさえも。
(語りだけでなく、オチもあるのですよ)
 ただ……霊能者さんが現われもせず、後味の悪いエンドになることも。

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2023年5月27日 (土)

『ぼくのヴィヴィエ夫人』(ユーゴ・ソレンツア 村野圭介/訳 富士見ロマン文庫 No.2)の感想

『ぼくのヴィヴィエ夫人』(ユーゴ・ソレンツア 村野圭介/訳 富士見ロマン文庫No.2)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 実は、こちらの本は、私がもっとも興味を引かれて読みたかった、富士見ロマン文庫のものです。理由は、タイトルがエロい、しかも、明らかに日本の官能小説ではないと思うからです。
 ほら、仮に、「ぼくの緑川夫人」「ぼくのお隣の緑川のおばさん」って……。夫人とは、めったに使わないし、後者だと、児童文学みたい。
 だから、少し期待していたのですが、読了してみると。
 何だか、1950~70年代くらいの、恋愛小説、もしくは、恋愛映画のノベライズみたい、でした。

 登場人物は、主人公は17歳の男子高校生、ダニエル・メルシェ。40歳頃ながら、30代にしか見えない、若々しくも豊満な肉体の持ち主、ヴィヴィエ夫人、またはジョゼットは近所の住む未亡人。彼女のまわりには、同年代の恋人、モーリス・タラベルと、娘のドミニック、35歳の独身の友人マリスがいます。
 簡単にあらすじを記しますと、ダニエルはある日、ヴィヴィエ夫人がモーリスと濃厚に愛の営みを行なっているのを、かいま見てしまい、大いにショックを受けます。知ってか知らずか、彼女は大雨でびしょ濡れになったダニエルの世話をし、会話をするうちに、二人の間に好意が生まれます。再び会った時、ダニエルは好奇心から、ヴィヴィエ夫人は恋人への不満と、少年のみずみずしさに心惹かれてしまい、肉体関係を持ってしまいます。ダニエルは有頂天になり、いささか傲慢な暴君へと変貌していきますが、ヴィヴィエ夫人はくやしいような、それが愛しいような、複雑な気分に。
 まもなくして、ダニエルは娘のドミニックとも知り合い、親しくなります。大胆な愛撫を行なうも、ダニエルは一線を越えられず、ドミニックは悲しみます。ダニエルの心変わりと、大事な一人娘のドミニックを奪われる恐怖から、ヴィヴィエ夫人は、友人のマリスに頼んで、彼を誘惑してもらいます。すんなりと、マリスとも交わってしまったダニエルですが、そのことに後ろめたさはなく、自分が本当にドミニックが好きなことを思い知るのでした。
 ダニエルと会えなかったドミニックは、悩んだ末に、母のヴィヴィエ夫人にすべてを打ち明けます。ヴィヴィエ夫人はダニエルをわが家に招待するように言って、昔の恋人であるモーリスに連絡をし、そのプロポーズを受け入れます。その頃、ダニエルとドミニックは、楽しく海辺ですごしていたのでした。

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2023年5月21日 (日)

『鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!』(鴻池剛・カドカワ)の感想

 コミック『鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!』(鴻池剛・カドカワ)の感想を申します。ネタバレが含まれていることに加え、今回はいわゆる汚物系のお話もありますので、(実は、私もよくやるのですが)お茶やお菓子などを食べながら、お読みにならないよう、ご注意ください。
 一言で申し上げますと、このマンガは、「笑った」とか「癒される」ものではないように思います。要するに、自分という人間以外の生き物と一緒に暮らすのは大変なんだなと、痛感させられます。タイトルのとおり、作者様が相手にしてやっているのは猫ですけれども、小さな猫一匹でもこんなに苦労するのですから、彼氏彼女、配偶者、子供ならば、苦労と苦悩、無限大、でしょうか。
 あらすじとしては、タイトルのままですね。後半に、子猫だったぽんたが友人を通じてやって来たことが、50ページの描き下ろしで描かれています。1巻の表記はありませんが、2、3巻が刊行されていますから、事実上1巻目です。
 私も、猫マンガは、じっくりにせよ、チラにせよ、何度も読んできましたが、描かれている猫(恐らくミックス)のぽんたは、元気といえば聞こえはいいのですが、活動的すぎ! 飼い主である作者様の都合など、ほぼ考えず、吐く、排泄する、汚す、破壊すると、天使よりも悪魔に近い生き物なのではないかと思われてなりませぬ。
 だから、猫が生理的に駄目という方には、避けられた方がいいかもしれません、けれども。
 そのかわいげのなさが、不思議とかわいいのです。

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2023年5月13日 (土)

『砂をつかんで立ち上がれ』(中島らも・集英社文庫)の感想

『砂をつかんで立ち上がれ』(中島らも・集英社文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 やはり、この作者様の作品は、おもしろいなあと、思いました。
 内容は、読書感想と、本(小説、マンガ全般)の解説メインに、エッセイを加えたものです。
 4つに分かれていますが、それぞれの章タイトルは、作中タイトルのもの。
『砂をつかんで立ち上がれ』も、4つめの章(?)でビートたけしの『顔面麻痺』の文庫解説のタイトルが元になっています。

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2023年5月 7日 (日)

『図録 性の日本史【第三版】』(笹間良彦・雄山閣)の感想

 書籍『図録 性の日本史【第三版】』(笹間良彦・雄山閣)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 内容はタイトルのとおり、日本の古代から現代まで、性に関する事柄を、くわしい資料と、作者様による詳細なイラストで描いて説明されたものです。
 なので、エロいっちゃエロいのですが、性器のお話はほとんどなくて、男女メインの性行為が描かれています。
 ただし、古代は神々、神と人のエピソードがありましたし、獣姦、性風俗産業などにも言及されており、どこから読んでも、「へえ、なるほど」「そういうことがあったのか」と感心され、学術書的な位置づけのはずなのに、わかりやすいイラストとあいまって、色っぽいコラムや記事を読んでいるかのような気分になれます(おいおい←自主ツッコミ)。
 ところで、第三版というのは、6ページの雄山閣編集部の説明によれば、「2002年刊行〈増補版〉を底本とし、できる限り原文を尊重しつつ明らかな誤字や誤記載を正し、より読みやすい書籍となるように再編集いたしました」とのことです。


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2023年4月30日 (日)

『絢爛たるグランドセーヌ』15巻(Curvie・秋田書店)の感想

 コミック『絢爛たるグランドセーヌ』15巻(Curvie・秋田書店)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 前半は、奏が暁人と、パリの炎をパ・ドゥ・ドゥで踊る公演。後半は(こちらがメイン)、奏が目標だった、イギリスのロイヤル・バレエ・スクールに留学するお話で、順調にはいかないだろうと予想していたのですが、まさか、そのようなことが起きようとは! 実は、前半後半とも、驚かされました。
 あらすじをご紹介しましょう。
 奏は久しぶりに、さくらやプロの練習を見、そのレベルの違いにショックを受けます。パリの炎が、フランス革命の物語で、ヒロインのジャンヌになりきろうと、奏は懸命に練習を重ね、本番では暁人とともに、火花の散るような高難度のパの応酬を行ないます。失敗はなく、観客からの温かい拍手も受けましたが、奏は、「どかーんって 盛り上げられなかった」と、不満。
 そして、友人や家族の優しい励ましを受けた後、奏はイギリスへと旅立ちました。早速、ニコルズ先生の出迎えを受け、寮の四人部屋に入ります。
 最初に出会ったのは、YAGPでかなり辛辣だった、エヴリン・フォックス。次に、閉鎖的で目を合わせようとしないキーラ。最後に、シンガポール国籍のレベッカ。エヴリンと奏は留学で、キーラとレベッカは進級組。そのエヴリンの大切なポスターを、レベッカがあやまって破ってしまったことで、エヴリンは激怒し、二人は対立関係に。
 一方、エヴリンと奏に、ロイヤル・スタイルのレッスンによる洗礼を受けます。基礎の基礎たる動きから、ヴァシリーサ・トルスタヤ先生の注意を受け、今までのやり方が通用しないことを痛感させられます。焦ったような真剣な表情になるエヴリンと対照的に、奏は「大変だぞ」と、ワクワク感がおさえられないのでした。

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2023年4月22日 (土)

『トルー・ラブ』(ジョン・スミス 羽林泰/訳 富士見ロマン文庫)の感想

『トルー・ラブ』(ジョン・スミス 羽林泰/訳 富士見ロマン文庫 No.78)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 手持ちの富士見ロマン文庫も、こちらでラスト一冊になってしまいました。意外と早いものです。
 ハズレが続いていましたが、今回は大当たりでした!
 まず、英語の教科書に登場する人物みたいな作家様ですが、翻訳者様のあとがきによれば匿名で、謎の方だそうです。
 けれども、石川啄木や北原白秋のような文豪が回し読みをされていたという、古き良き時代の、名作ポルノ小説だとか。
 内容とあらすじを説明いたしましょう。
 スミス大学の卒業式前、秘密社交クラブで送別夕食会が開かれていましたが、フランク・イートンが、会員の中で唯一童貞であることが彼らの話題となります。彼の性を卒業させるべく、娼婦のアイダとビックが呼ばれますが、成果は五分五分といったところ。
 イートンを本気にさせようと、会員は、卑猥な言葉を使わないようにするという条件で、彼らそれぞれの性の初体験談を語る、というものです。
 この序章っぽい部分から始まって、次のようなお話が続いていきます。

 第一章 ブラウンの物語「ゴム製品」
 第二章 ネッド・スタンレーの物語「内気な少年」
 第三章 バートンの物語「仮装舞踏会」
 第四章 イートンの物語「短く甘く」
 第五章 幕合い劇-シャンペンとキス
 第六章 リバーズの物語「夜の姫君」
 第七章 スタイブサントの物語「干草小屋の中で」
 第八章 リチャードの物語「解剖学の公開実験」
 第九章 ランキンの物語「寝台車の妖精」
 第十章 バークレーの物語「船上の恋」
 第十一章 幕合い劇「背面攻撃」
 第十二章 ウィズロウの物語「謎の訪問者」
 第十三章 アイダの物語「女の場合」
 第十四章 ビックの物語「あれの楽しさ」
 第十五章 会長の物語「泥酔者」

 第五章と第十一章の幕合い劇は、番外編っぽい、アイダとイートンのエロチックな触れ合いのエピソードです。短い割に、濃厚にいやらしいですね。
 そして、第十三章、第十四章は女性側の体験談。
 それらを除けば、個性もシチュエーションも異なる、男性側からのお話というわけで、短編ポルノが15あるという感じですね。
 最後は、「おわりに」で、ジョン・スミスがこのお話を書いた理由を述べています。
「つまり、女性というものは、女性に誘惑された体験を持つ男性か、さもなければ(自主規制)」という命題に、私は反発を感じるような、同感するような、もやもやしたものが残りますが。

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2023年4月15日 (土)

『トップモデル』(作者不詳 小沢瑞穂/訳 富士見ロマン文庫)の感想

『トップモデル』(作者不詳 小沢瑞穂/訳 富士見ロマン文庫No.75)の感想を申します。ネタバレが含まれていますが、大したことではないかと思います。
 その理由は、この小説がつまらないからです。

 あらすじを説明いたしますと、大富豪スタヴロス・ステファノスの愛人として有名な、元トップモデルのアリス(彼女が作中ヒロイン)が、「私」として、一人称で語るスタイルです。スタヴロスの急死にともない、アリスはアメリカに帰国してきました。大勢のマスコミによって追いかけられる中、プリンス・アルバートとマーク・ジャドスンの二人が彼女の世話役になります。
 15年もギリシャの小島に住んでいて、アメリカの日常生活にすっかりうとくなってしまったアリスは、化粧で変装し、あちこちへ出かけては、行きずりの男達と話をしたり、恐れもせずに体の関係になったりするのでした。
 そうやってすごす反面、アリスは自分の過去を想起します。異常な偏愛ぶりを示した父と、酒びたりの母という一家からの脱出、モデルとしての名声を勝ち取っていったこと、何人もの男達との出会いと恋、挫折、別れ等々。

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2023年4月 9日 (日)

『アダムとイヴ』(マーカス・ヴァン・ヘラー 水沢夏樹/訳 富士見ロマン文庫)の感想

『アダムとイヴ』(マーカス・ヴァン・ヘラー 水沢夏樹/訳 富士見ロマン文庫 No.24)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 作者様、翻訳者様には、申しわけありませんけれども。
 今回の『アダムとイヴ』、それから次回にアップする予定の作品は、今まで読んだ富士見ロマン文庫シリーズの中で、もっともおもしろくありませんでした。
 簡単に、あらすじをご紹介しましょう。
 イギリスの片田舎の美男美女カップル、アダムは画家に、イヴは女優になることを熱望していました。アダムはイヴに、積極的に性のアプローチをするのですが、イヴは拒否して逃れます。思案した挙句、イヴは貪婪に夢をかなえるため、舞台監督などの実力者に、いわゆる枕営業を行なうことを決心します。最初、うまくいかなかったのですが、徐々に巧みに自分を売りこむようになり……。
 一方、アダムも自分の体で、批評家や金持ちのパトロンを味方にすることを学びます。
 アダムとイヴ、二人は同じように成功への道を上り詰め、周囲には初対面のようなふりをしながら、海中で念願の合体をしたのですが、もはや以前の恋人同士にはなれませんでした。

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2023年4月 1日 (土)

カラーブックス252『名作の旅5 堀辰雄』(中村真一郎・小久保実 共著 保育社)の感想

 カラーブックス252『名作の旅5 堀辰雄』(中村真一郎・小久保実 共著 保育社)の感想を申します。堀辰雄の小説の解説本ですので、ネタバレまみれですから、苦手な方はご注意ください。

 リサイクル本屋様で時々見かける、今は無き、保育社のカラーブックスシリーズです。手のひらサイズ、二段組とはいえ200ページに満たない厚みでありながら、堀辰雄の作品とそのバックグラウンドたる軽井沢や大和路などの情景を、多くのカラーもしくは白黒写真を掲載して、イメージたっぷりに解説している内容です。
 掲載作品は、『美しい村』『風立ちぬ』『木の十字架』『菜穂子』『大和路』など、主要作品すべてといっていいでしょう。
 ただ、昭和47年8月1日発行ですので、情報の古さは否定できませぬ。
 作者様は終始、わかりやすく、真面目に述べておられますが、もしかして、後年、異なる定説や事実が発見されたかもしれないでしょう。
 巻末には何と、作者様の住所が載せられていて、昭和の時代は個人情報保護の気持ちがなかったのだなあと、戸惑わされました。

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«『白い獣』(セバスチャン・グレイ 野間幽明/訳 富士見ロマン文庫 No.46)の感想