夢幻紳士【迷宮篇】感想
私の感想は、完全にネタバレですので、ご注意下さい。
タイトルの、早川書房版「夢幻紳士【迷宮篇】」は、「幻想篇」「逢魔篇」と続く三部作の完結バージョンです。影と本体が分離していたり、すでに妖怪の正体を見破っていたりして、ずっと余裕をかましていた夢幻紳士こと夢幻魔実也氏ですが、何と次々に殺されそうになります。
叫ぶ若い女、通りすがりの医者、その娘、本郷義昭少年、その母、ついには顔見知りの芸人、手の目にまで。そして、異界を行き来して遊ぶ実体のない少女は何者か? このように、伝染する殺意の発端は、幻想篇で登場する主人公「ぼく」の遺産をねらう、叔父が関係していたのでした。結果、幻想篇のラストシーンから続く逢魔篇を加えて、三部作は見事に連関し、幻想篇の「ぼく」と逢魔篇の「手の目」はそろって、迷宮篇の「幻の少女」に、「彼」に名前を聞くようにすすめる。問いかけられた彼は、先の二部同様に、きっと微笑して名乗るでしょう。こういうあらすじです。
うーん、さすが、高橋葉介先生。これほど短編を有機的につながらせるテクニックは、お見事! と断言したいところですが、私は迷宮篇に関してのみ、少しだけ不満を持っています。まず、絵のタッチですが、各自のイメージ世界を表現するため、木炭かパステルで描いておられるのでしょうけれども、これが私にはとてもわかりにくくて、イラッとする。もう一つは、登場人物の少女達は最初薄幸であったけれども、みんな救いはあったし、幸せにもなれました。しかし、迷宮篇のみに登場する本郷義昭は、ほったらかされているように思えます。
義昭は父が海軍大佐ゆえに裕福そうなのですけれども、母は殺意の伝染により発狂、父は女遊びにうつつを抜かして帰ろうとしない。「僕は誰からも愛されていないのだから」と、吸血鬼イメージの魔実也を前に涙ぐむ、実に痛ましい存在なのです。中学生っぽい彼は、手の目に助けを借りたり、また眠る少女に醜い欲望を抱きもする。これから、どう関わっていくのかと期待しつつも、幻の少女に登場チャンスを奪われてしまいました。魔実也と別れてからも、義昭の苦悩は続くのでしょうか。母の病気は治らないままなのでしょうか。私は気をもんでいるだけに、少しがっかりしました。
けれども、こうも考えるのです。義昭の苦悩が続くのは、彼の当たり前の情熱、つまり性欲から発しているのです。少女達はけりをつけられる、だが、男である少年は正直であるほどに、自分の情念に死ぬまで悩み苦しんでいかなければならないのだ、と。
私は女ですから、男性一般の心理や行動パターンはまだよくわからないところが、いっぱいあります。男性が男として生きるのは、とても大変なことなのかもしれませんね。
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