影武者 徳川家康Ⅳの感想
ずいぶん遅くなりましたが、「影武者 徳川家康 Ⅳ」(隆慶一郎 原作・原哲夫 漫画 徳間書店)の感想について申し上げます。相変わらず、ネタバレですから、ご注意下さい。
以前同様、私は主人公である、徳川家康の影武者、二郎三郎がちと完璧すぎることに不満を抱いています。性格のみならず、外見も。どちらかと言えば、以前の作品、「花の慶次」に登場した家康のように、一見人がよさそうな老人である方が自然では? まあ、掲載されたのが少年誌だから仕方なかったのでしょうかねえ。そんな彼が、ある時には日和見、ある時は計算高く、ある時は非情と、将軍たるべき様々な顔を、二郎三郎が試行錯誤しながら身につけていくのではないかと、期待していたのですが、ちと残念。
その代わり、この漫画には二郎三郎の周囲の人間達が実に魅力的なのです。私が一押ししている徳川秀忠は、いよいよ本性をあらわにしてきたのか、あの白々しいニコニコ顔を出さなくなり、表向き父である二郎三郎を、「父上」と呼んで威圧するようになりました。いやな性格だし、影のにじんだ表情です。でも、こちらの方がリアル。いいぞ! 悪役として、ますます二郎三郎と張り合ってほしいものです。
ただ、主人公と対比させるためか、秀忠は人望もなく大した家来もいないのに、「おれは将軍の器ではないのか」とモノローグで述べていて、「将軍にふさわしいと、本気で思ってたの?」と、私はずっこけました。しかし、側近にはもう一人、「父上は 大嫌いでござる!」と断言した曲者、柳生宗矩がいるから、主人公優勢の現状をなおも揺さぶってくれるに違いないでしょう。後半、二郎三郎の秘密を知る、すりという老人が斬殺されたのは意外であり、権力闘争の恐ろしさを感じました。
他に、徳川側近(すべて二郎三郎側ですが)の本田忠勝、井伊直政、榊原康政。関ヶ原敗北の将、石田光成。島左近をかくまう、表向きは商人の加藤数馬等々と、年齢・身分・立場・価値観がすべて異なっている男性登場人物は、すべて魅力的ないい顔をしております。歴史の本を開いて、一人一人の生涯を調べたくなるほどです。逆に、女性は何かこう・・・・お梶の方のように主人公と親しい美女だと、今一歩、他の原哲夫作品に登場したヒロインと変わらないように見えてしまいます。美女でも勝気であったり、理知的であれば描き分けようがあるはずなのですが、これが原さんの持ち味ならば、やむを得ないのでしょうかね。
影武者 徳川家康は、外伝の左近、要するに島左近が主人公になるお話に続きます。私は展開を知らなかったので、この四巻の途中で、全身を矢で撃たれたと思われた島左近が生きていたのには、ひどく驚きました。しかも、六郎に口移しされてたから、精神的鼻血大出血(まだ言うか)。原さんの絵はリアルであっても、色気はないと思っていましたから、撤回します、あやまります。すみません、原先生。
さて、島左近の人柄はどういうものなのでしょう? 慶次みたいに無邪気なだけでは、一軍の将になれないのでは? 期待や不安を呼び起こしつつ、やはりときめきながら、「影武者徳川家康外伝 左近」を待つことにいたします(え、もう発売されてる?)。それでは。
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