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2008年4月29日 (火)

「オイディプスの刃」感想

 今回は、赤江瀑の長編小説、「オイディプスの刃」について申します。ネタバレですから、ご注意下さい。
 私の手元にあるのは、昭和49年10月5日の初版ものですが、現在はハルキ文庫から発行されていると思います。古本屋さんにも、角川文庫版でよく出回っているようですから、興味をお持ちの方はどうぞ。
 さて、「オイディプスの刃」は、赤江さんの代表作にしてもっとも有名な作品でしょう。日本刀、疑惑という花言葉を持つラベンダー、調香、母への強い慕情、兄弟間の争い、古きよき京都で起こる凄惨といった、一見どうにも関係なさそうな要素が見事に調和・融合し、「そして誰もいなくなった」といわんばかりのラストシーンに至る、すさまじい小説です。
 分野的にはミステリーで、推理的要素もなくはないのですが、希薄です(赤江さんの作品全般の特徴かもしれませんが)。読み手はただひたすら、赤江さんの博学さと、登場人物達のどろどろした情念が生み出す恐ろしさと妖しさ、さらには、まるで舞台劇を見ているような美麗さに、どっぷりひたるべきでしょう。

 前置きが長くてすみませんが、本当に赤江さんの小説にあらすじなんぞ必要はないのですよ。あえて紹介させていただきますと。
 主人公は、京都で男向けのバーを経営している26、7歳(?)の大迫駿介。彼は16歳の時、下関のわが家で恐ろしい流血事件を見聞したのでした。刀研ぎ師、秋浜泰邦が日本刀で腹を突き刺されて死んでおり、それを見て、泰邦と思い思われる仲だった母の香子はその刀で胸を突いて自害。駿介のすぐ上の兄、明彦と弟の剛生は、互いにおまえが泰邦さんを殺したと、非難し合います(駿介は自室で昼寝をしていました)。兄弟から一切を聞いた義父(母は後添い)の耿平は叱りつけ、彼らを部屋へ引き取らせた後、何と泰邦と香子の血を吸った日本刀で割腹自殺をしたのでした。世間では、泰邦と香子の関係に狂った耿平が、二人を殺して自殺したと認識します。が、大迫家に残された兄弟達の心の傷は深く、剛生は引き取り先から出奔して行方不明になり、駿介は大学進学をあきらめて水商売に走り、明彦は亡き母の面影を追うかのように、香水の調香師になったのでした。やがて、安村という、フランス在住の謎の天才調香師が、明彦に挑戦するかのような香水をつくり上げます。安村は行方不明の剛生でないのかと、駿介が疑ううちにも、安村VS明彦の確執は深まっていきます。ついに、安村こそ剛生であることが彼からの一本の電話によって、駿介は知らされるのですが、同時にあの真夏の大迫家崩壊事件の恐ろしい真相を知らされることになるのです。泰邦を斬ったのは、もっとも無関係であるはずの駿介本人でした。また、明彦はついに剛生を殺害してしまいます。こうして、駿介は明彦と、泰邦の純情を踏みにじった叔母、雪代に最後の真実を聞きただして制裁を加えるべく、雪の舞う善峰寺へと向かうのでした。あの恐るべき日本刀、次吉を持って。
 ラスト100ページを割ったあたりの急展開は、息が詰まるほどです。あらすじでは省略しましたけれども、実は女性の介在する余地のない、男同士の友情や憎しみにも似た執着が描かれております。例えば、駿介の、バーテンであるツトムへの配慮、ツトムが善峰寺へ向かおうとする駿介を必死で引き止めようとする切実さ。泰邦の弟、ヒロシが正体を隠して駿介に関わり、兄の死の謎をさぐろうとしたところなど。
 最後に、駿介は明彦と雪代を斬り、自らも次吉で腹を刺します。これが、自分の生きてきた証しだと信じて。私もこれ以外のラストシーンはないと思います。何度読んでも、すさまじい小説ですし、今後とも何度でも読まずにいられないでしょう。

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