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2008年5月25日 (日)

『大奥』第二、三巻の感想

 コミックスの『大奥』(よしながふみ 白泉社)第二、第三巻の感想です。相変わらずのネタバレですから、ご注意下さい。
 第一巻はかなり以前に読んだので、省略させていただきます。第二、第三巻は続き物になっています。大奥形成の過程における、上様と呼ばれる将軍家光の血を引く少女と、有功(ありこと)という元僧侶との恋愛を中心に、権勢をふるう春日局の暗躍が描かれています。
 一言申しますが、このお話は歴史マンガではありません。江戸時代ファンタジーです。何と、赤面疱瘡(あかづらほうそう)という若い男性のみがかかる伝染病のため、男の数が女よりひどく少ない(第一巻の説明によれば、男は女の四分の一)。そのために、女はすべての仕事をしなければならず、家業を受け継ぐのも女。貧しい女は男を買って種付けをして子供を生み、結婚できるのは裕福な家の女だけ。だから、大奥も男向けポルノ映画みたいなハーレムでなく、女将軍一人に美男三千人がかしずいております。そんな大奥は、どのようにしてできあがったのかが、明らかにされていきます。

 京から来た有功は、春日局の陰謀により、大奥の元になる江戸城の一角に軟禁されます。実は、将軍家光の死を隠すため、上様なる少女をはらませ、徳川の血を絶やさぬためでした。上様は気性が荒く、初対面の有功を血が出るほど扇で打ちすえもします。しかし、彼女は本当は気の毒な身の上でした。平和に暮らしていたところを、春日局に乳母と母は殺されてさらわれ、無理に男の身なりにさせられます。しかも、その姿がある武士から小姓と間違われて乱暴されて妊娠し、苦しんで生んだ子供は早々に死んでしまったのです。僧侶だった頃は多くの人々を救おうという使命感に燃えていた有功でしたが、「私の救わなければならないお方ずっと 目の前におられたんや」と思い、女装していた着物を上様に着せ、優しく「上様の方が 私よりずっと お似合いで ございます」と語りかけます。号泣する上様。男装の美少女と女装の美青年が、泣きながら抱きしめ合うという、痛ましくも美しいシーンで第二巻が終わります。
 第三巻は、相思相愛となった有功と上様には、子供ができませんでした。焦る春日局は、何と有功と瓜二つの市井の青年、捨吉を探し出して、無理に上様に押しつけるのでした。皮肉にも、上様は女児を出産します。さらに、上様には有功の下の小坊主であった玉栄まで子を生すために仕えることになります。母となったゆえか、上様は家光の影どころか、「家光」として権威を発揮していきます。同時に、有功もまた、妾腹の武士の集まりでしかなかった大奥を改革していきます。春日局は焦るものの、時の勢いはとどまらず、ついに病に倒れて亡くなります。家光は泣くものの、拝賀の席においては、ついに女将軍家光として、じきじきに臣下へ言葉をかけるのでした。
・・・・凄絶なお話でしょう? 作者のよしながさんは、ボーイズラブ出身で同人誌作家さんでもいらっしゃるから、確かに男色っぽいシーンはありますにおわせる程度ですが(ですから、男同士の恋は、ちらりとでも見たくない方にはおすすめできません)。通常なら、いわゆる腐女子が大喜びしそうな設定に溺れることなく、女が男の四倍という不自然さに流されもせず、きっちりと世界を創り上げているのは、まったくお見事です。
 ところで、あらすじは申しましたけれども、もっと大勢に登場人物やその運命も述べられているのです。私としては、第二巻の方が印象的でした。有功と上様が親しくなっていくきっかけに、若紫という猫の存在があったのですが、この猫、後になって玉栄に斬り殺されます。憎い敵に詰腹を切らせるためのわなでしたが、猫好きの私にはかわいそうでなりません。あと、割と最初の方で、有功を還俗させるために吉原の遊女を無理に抱かせるのですが、事がすんだ後、春日局は遊女達まで斬殺し、野ざらしにします。これも気の毒です。本当に、春日局は一見、柔和で穏やかそうなのに、「口封じ」と称して、何人殺しているやら。彼女は絶対に地獄行きですね。
 しかし、そこまでして春日局が守りたかったもの、創りたかったものは何なのでしょう。彼女は、「それは 戦の無い 平和な世の事です」と、第三巻で有功に答えていましたが・・・・こんな血まみれで大勢を泣かせる平和なんて、考えられません。
 結局、春日局は大勢の人々から永遠に、賞賛されたかったのではないかと、私は思えるのです。自らの墓に絶えることなく、お香や花が供えられ、歴代将軍達にほめそやされていたかったのではないでしょうか。そのための人殺しを重ねるなんて、ある意味、彼女は一番不幸せな女性なのでしょう。
 キャラクターが立っているとは、この漫画のことをいうのでしょうね。なかなか、勉強になるお話でした。それでは。

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