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2008年9月16日 (火)

『シグルイ』11巻の感想②−「がま剣法」編

 引き続いて、『シグルイ』11巻(原作:南條範夫 漫画:山口貴由)のBパート、「がま剣法」編の感想を申します。ネタバレですから、ご注意下さい。
「がま剣法」編は、伊良子と藤木の闘いを見守っていた、がまに似た異様な風体の男、屈木頑之助が主人公のお話です。シグルイの1、2巻において、舟木兵馬 数馬兄弟は、伊良子と藤木両名に倒されましたが、この舟木家が舞台となっております。

 頑之助は彼らの父、一伝斎に拾われて育てられましたが、頭が大きすぎるため、普通に剣を使えません。そのため、弟子達からからかわれ、いじめられるのですが、それを制止したのは、一伝斎の一粒種となった娘、千加でした。彼女は双子の兄達に負けない怪力と豪放な気質を兼ね備えた美女で、胸元をチラ見せすることなどためらいもせず、他の弟子達と闘い、打ち負かすのです。もっとも、千加が頑之助に親切なのは、人間扱いしていないからなのですが、頑之助の心中の中で一方的な熱い思いがふくらんでいきます。
 やがて、千加は大胆に好みの弟子(倉真又八)に対して、大胆に夜這いをかけますが、彼女自身も思いがけなかった異変が起きます。千加の乙女の一部位が、男子と化したのでした(いわゆる、陰核肥大症のひどいものですかね?)。異変は一瞬ながら、床下にひそんでいた頑之助はこの秘密を知ってしまいます。他人と異なる自らの体と、千加のものに重ね合わせた頑之助は、彼女の婿として選ばれる兜(かぶと)投げ出場を決意し、一伝斎も許します。
 兜投げとは、投げられた兜を真剣で両断しなくてはならないという試練なのですが、斉田宗之助という弟子一人が成功します。最後に頑之助ですが、一伝斎は直感的に彼の優れた力量を察知し、娘を盗られまじと、兜を顔面へたたきつけます。頑之助は無様に血泥にまみれるのでした。
 そして、千加は斉田と結婚しますが、初夜にまたあの体の異変が起きて失敗します。斉田は焦るまいと思うのですが、明くる正月、何者かに膝から下の両足を切断され、顔の皮膚をそぎ落とされて殺されてしまいます。次の兜投げの成功者倉川喜左衛門も、翌年の千加の婿候補、笹原権八郎も、優れた剣技の持ち主でありながら、同じように斬殺されるのでした。
 下手人はもちろん、頑之助です。彼は山奥深くに隠れて独自の修行を積み、恐るべき「がま剣法」を身につけたのでした。それは、巨大な頭を地に着けて回転して相手の膝から下を切断し、続いて背と首の筋肉で下から上へと跳ね上がって、顔や頭を斬りつけてとどめを差すというものだったのです。頑之助は最初の犠牲者、斉田から奪った整った足や顔を見ながら、自らのイメージを美しいものと、すり替えていきます。川に移った自らの顔を比類ない美青年とみなし、そして、千加の婿候補には、残忍極まりない殺害を行なうようになったのでした。
 いかがでしょうか、Aパートとはまた異なる、凄惨なお話でしょう? この「がま剣法」編で、私が夢中になったのは頑之助よりも、強くて性格の悪い千加です。彼女は、立場的には三重と似通っております(彼女の婿が、立派な家屋敷や高い身分を継げるということです)。が、並みの男ではかなわない力量があるだけでなく、美形好みで夜這いはするし、交わりに失敗するや、倉真又八の左顔面の皮を引きちぎるのですよ。しかも、醜くなった又八に風呂で背中を流させる、大股開きになると、性悪エピソードに事欠きません。こういうきれいなだけでない女性は、もろに私のタイプですから、伊良子が登場しなくても、結構楽しめました。
 しかし、藤木や伊良子、頑之助を狂わせているのは、本当に家屋敷や身分だけなのでしょうか。皆、貧乏で、剣に頼らなくては出世が望めないのは確かですけどね。私は彼らを地獄へ追いやる最大の下手人は、徳川忠長だと信じてやみませんが(駿河城御前試合という残忍な舞台を用意するのですから)、もう一つ恐るべきは刀に秘められた魔性だと思います。斬る感触、倒れる相手の苦痛にゆがむ表情や悲鳴、おびただしい血や肉片。そんな相手を見下ろす際、自分が絶対者のように感じられて、総毛立ったのではないでしょうか。そうして、またあの快感を味わいたくて凶行を繰り返し、どんどん日常の感覚を忘れてしまっているのでは? 
 たぶん、刀は悪魔が生み出したものでしょうけれども、どうして美しいのかと、私は博物館に行く度に不思議に思いながら、惹きつけられてしまいます。美と残酷や狂気は、意外と紙一重なのかもしれませんね。ある意味、人間って、とても怖いのでしょう。
 文章ではとても、憎悪に彩られる藤木と三重、性悪ゆえになまめかしい千加、鬼気迫る頑之助の魅力が表現できないのが残念です。まあ、流血や残忍が苦手な方にはお勧めできませんが、刺激をお求めの方はぜひ購入し、凄絶なシグルイ・ワールドにどっぷりはまってみて下さい。それでは。

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