『シグルイ』11巻の感想①−「無明逆流れ」編
ずいぶんと遅くなってしまいましたが、『シグルイ』11巻(原作:南條範夫 漫画:山口貴由)の感想です。例によってネタバレですから、ご注意下さい。
今回は、非常に感想を申しにくい(いきなりかい!)構造なのです。つまり、A.藤木と三重による「無明逆流れ」→B.屈木頑之助が主人公の「がま剣法」→A'.藤木と三重のエピソード続編となっているのです。それから、ちょいと脱線しますが、今回、伊良子の登場は表紙と次回予告のみ。 伊良子ファンよ、怒れ! ・・・・って、冗談ですが。
よって、混乱を避けるために、「無明逆流れ」編と「がま剣法」編、別個にあらすじを紹介した上で、感想を述べます。
「無明逆流れ」編Aパートでは、伊良子と藤木の仇討ち試合の不始末に責任を取るため、孕石備前守(はらみいしびぜんのかみ)が自刃します。介錯を行なったのは、雪千代でした。一方、伊良子に事実上負けてしまった岩本家では、捨て扶持にまで降格され、使用人もすべて解雇されてしまいます。そして、駿河藩密用方が来訪し、「討人仇人 共に生き残りたる仇討ちなど前例なし」として、伊良子との再戦の儀を(徳川忠長の)上意として申し渡します。藤木は絶対君主の気まぐれによって、武士として敗北しながらも、名誉の死を遂げられなくなったのでした。
A'パートでは、屋敷を失い、農家の納屋で、三重と藤木は、ともに窮乏しながら暮らしています。本来ならば、貧しいながらも甘い新婚生活といったところでしょうが、三重は藤木の行水を手伝っても、互いに男女の交わりはない模様。二人は不名誉と貧乏にあえぎながら、寄り添って暮らしています。そんな折りしも、藤木が廃寺で切断された左腕の幻影肢に苦しんでいた時、孕石雪千代がやって来ます。彼は父の敵を討とうとして抜刀し、藤木に斬りつけようと構えます。が、右腕しかない藤木は、神速の技で雪千代のほとんどの指を切断、返す刀で腹を断ち割って倒すのでした。呆然としながら、藤木は雪千代の亡骸や血に触れて、失った左腕がよみがえる感触に溺れます。三重も三重で、父の虎眼の血を吸って黒く変色した内掛けをはおり、呆けた表情を浮かべるのでした。
・・・・いかがです、藤木と三重、恐ろしい変身(変心?)ぶりは? 二人の間を強固につなげているのが互いの愛情ではなく、伊良子への憎悪と殺意であるわけですよね。これは、果たして三角関係なのでしょうか。心理療法家さん達が顔色を変えるであろう、不健全でネガティブ、希望のない心理であり関係だと思います。真似したくないし(できないって!)、二人を賞賛するつもりも、まったくありませんが。
藤木と三重、この二人も人間であることに間違いありません。いわゆる、業の部分ですよね。このような徹底した人間のマイナス面を全面に押し出しているからこそ、シグルイは読む者に、すさまじい衝撃と同時に、不思議なエクスタシーを覚えさせてくれるのではないでしょうか。少なくとも、藤木と三重は、純粋そのものです。「誰でもいいから、殺したかった」と、告白する、大量殺人犯の方がずっと病んでいると、私は思います。
おっと、熱くなって予定の分量をオーバーしてしまいました。「がま剣法」編の感想は次回に。
| 固定リンク | 0
「シグルイ」カテゴリの記事
- 『シグルイ』15巻(完結)(原作:南條範夫 漫画:山口貴由)の感想(2011.07.12)
- 『シグルイ』14巻の感想(2010.04.13)
- 『シグルイ』13巻の感想(2010.04.03)
- 『シグルイ』12巻の感想(2009.08.23)
- 『シグルイ』11巻の感想②−「がま剣法」編(2008.09.16)
コメント