水木しげる妖怪傑作選③「縄文少年ヨギ」の感想
去年の暮れに、コンビニで購入した、『水木しげる妖怪傑作選③「縄文少年ヨギ」』(中央公論社)の感想を申します。ネタバレですから、ご注意下さい。
ほんの気まぐれで買ったため、①や②がどういう内容なのか、私は知りませぬ。それでも、ほんわかとおもしろく、ほのぼのしていて、残酷で、また皮肉という深い内容を含んだお話ばかりです。
掲載されているのは、「縄文少年ヨギ」が全16話でほぼ一話完結、あとは「天国」「河童膏」「合格」「偶然の神秘」「化木人のなぞ」というタイトルの短編です。「縄文少年ヨギ」の方は、ほとんど説明する必要がありませんな。タイトルのまま、縄文時代のごく普通の少年ヨギが、不思議な神や精霊に囲まれ、両親と巫女のおばばに教えられながら、厳しい環境の中を暮らしていく、というものです。縄文時代なんて古代、実感が湧かなくて当然なのですが、不思議とこの作品は違和感がありませぬ。逆に、便利な生活をしているはずの現代人の方が、自然に対する畏怖を忘れて、不自由な生活をしているように思えてきます。
しかしながら、ヨギたちは屍鬼、食人族、餓鬼といった、とんでもなく強く恐ろしい連中と対峙して生きなければならないわけで、現代人が縄文時代に行くことは、果たして幸せなのだろうかと、考えこんでしまいますね。
他、5本の短編は、私がまさに「ヨギ」に対して抱いた疑問をテーマにした「天国」、純朴な河童をだませなかったがために、身ぐるみ失う哀れな男のお話「河童膏」、ネズミ男そっくりな男が生真面目な剣術修行の少年から絞り上げる「合格」、小栗虫太郎原作のアマゾン冒険譚「化木人のなぞ」。
私が特に注目したのは、「偶然の神秘」です。これは日露戦争、忠臣蔵のきっかけである松の廊下の刃傷事件、水木さん自身の戦争体験、「勝五郎の再生」と、さらに細かいエピソードに分かれています。最後の「勝五郎の再生」は、平田篤胤が書き残したノンフィクションで、八王子在で八歳の勝五郎が家族に、「自分は生まれる前のことを知っている。程窪(ほどくぼ)村の久兵衛の子だった」と語ったところ、まさにそのとおり。それからも、勝五郎は程窪村へ行きたがった、というもの。彼は自分の生まれ変わった経緯をも語りますが、これが何と! 森田健さんが『生まれ変わりの村①』『あの世はどこにあるのか』の二冊で書いておられた、中国の生まれ変わりの村のエピソードによく似ています。
特に、1.死んだが、天国にも地獄にも行かなかった。2.霊のまま、母のそばについて、体に入る機会をうかがっていた。3.生まれ変わった場所は死んだ村と、あまり離れていなかった。4.勝五郎は、以前の記憶を堅持していた。以上、4点が一致します。
しかしながら、①勝五郎は程窪村で死んだ時と生まれる前に、妙なじいさん(あんまり立派そうには見えませぬ)に導かれていった。②生まれる前は、妙なところで遊んでいた(どこがどう妙なのか、勝五郎の台詞のみでは不明です)。この2点が違うのです。
それでも、中国の村以外で思いがけず、しかも日本で、生まれ変わりのエピソードがあったとは驚きです。森田さんの不思議研究所に投稿しようかなと、少し迷っています。
本当に、水木さんは怪奇幻想譚がうまいですね。また、他の話も読んでみたいです。それでは。
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