『サザエさん うちあけ話 サザエさん 旅あるき』の感想
長谷川町子全集32巻(朝日新聞社)の『サザエさん うちあけ話 サザエさん 旅あるき』の感想を申します。ネタバレですから、ご注意下さい。
『うちあけ話』は、タイトルからして勘違いしそうですが、こちらはサザエさん作者の長谷川町子さんによる、自叙伝に近い内容の画物語です。サザエさんの制作秘話もありますが、ごく少なめ。町子さんを含めた、長谷川家三人姉妹とその母の一家は、ふり返ってみると、父は早く亡くなり、長女の夫は戦死、三女の夫も三十代で病死、かわいがっていたペット達との死別など、なかなかハードな内容ながら、ほんわりした明るさがあるのは、驚いてしまいます。クリスチャンである、長谷川家の信仰ゆえでしょうか、それとも、家風というか、性格によるものでしょうか。
とにかく、最後のページで、すっかりボケてしまった母を姉(長女の毬子さん)は嘆くものの、私(町子さん)は、「キミ、なげきたもうな、すべてこの世はうたかただよ、」/「絵のてんらん会でも見に行こう!」と元気づけ、二人はよそおいをこらして元気にまちへくり出す、というものがあります。暗さは微塵もありません。大したものです。
しょっちゅう、何だかわからない不安に駆られてしまう私としては、「キミ、なげきたもうな、すべてこの世はうたかただよ、」、このセリフを今年一番の贈り物として、記録しておきたいです。
『サザエさん 旅あるき』は、やはりサザエさんではなく、母や姉と、町子さんが同行した旅の体験記です。これが、最新の出来事であろう最後のエピソードを除けば、舞台が日本の某所、海外のどこそこと、時系列無視で変化します。きっと、町子さんが思い出すままに描かれたのでしょうね。
こちらの表現はマンガですから、割と、さぁっと読めてしまいます。先に紹介した『うちあけ話』よりも、笑いのエピソードが濃厚! 母の乳幼児じみた大胆さとわがままぶりは、笑うと同時に呆れ、また本気でうらやましくなりました。
母親なんて、やっぱり、孟母(「孟子のお母さん」です。息子のために三回も引っ越したとか、断機の教えなど、私が生理的に苦手なエピソードの多い方です)ばかりではなかったのですね。ソクラテスが悪妻クサンチッペの手で哲学者として鍛えられたように、娘は母親によって、タフにされて、力強く生きていくわけです。
やはり、サザエさんの作者とその家族は、ただものではありませんでした(こう表現したら、きっと長谷川家の方達はいやがるでしょうけど)。それでは。
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