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2009年12月 6日 (日)

『紙の砦』の感想

 漫画『紙の砦(とりで)』(手塚治虫漫画全集274巻・講談社)の感想を申します。ネタバレですから、ご注意ください。
 これは短編集で、一つのギャグ(『という手紙がきた』という作品)をのぞけば、すべて手塚治虫さんの若かりし頃、つまり、厳しい勤労奉仕をやらされながら必死で漫画を描いていたり(『紙の砦』)、とてつもなく空腹であったり(『すきっ腹のブルース』)、戦後の思い出を語ったり(『トキワ荘物語』『動物つれづれ草』)、戦後間もない駆け出しの頃から、理想の漫画を目指して奮闘する姿を描いていたり(『がちゃぼい一代記』『どついたれ(抜粋)』)と、エピソードがやや重なっております。その上、主人公はほとんど手塚さんか、手塚さんそのものの主人公、つまり夢はあるけれども、空気が読めず、おべっかも使わないから、軍の教官からなぐられ続ける、不器用な青年ですね。これは、水木しげるさんの自伝漫画に共通しています。空腹に苦しみ、なりふりかまっていられなくなるところも似ています。違うのは、手塚青年が、ひたすら「漫画を描きたい!」と熱望している点です。これは、情熱というより、恋情に近いのでは?

 印象に残ったのは、まず、『すきっ腹のブルース』で、主人公がふかし芋をむさぼるシーンです。私は筋金入りの食いしん坊(グルメじゃないから、ミシュラン不要!)で、『二十歳の原点』(高野悦子・新潮文庫・・・今も発行されているのでしょうか?)で、「コーヒーとトーストを食べ」の一文に刺激され、おやつにコーヒーとトーストを食べ続けて太るようなやつなのですが、主人公はとてもおいしそうに満足した表情でありながら、私は全然食欲をそそられません。まるで、黒い土の塊みたいな芋です。当時の食糧事情がしのばれます。
(しかし、『二十歳の原点』で食欲が湧くとは、痛ましく切ない自己告白書なのに、雰囲気ぶち壊し! ま、一人くらい、おかしな読者がいるということで、お許しください)
 もう一つ、『紙の砦』『どついたれ』に描かれている、大阪が空襲にあい、数多くの死者が倒れているシーンは、手塚さんはやはりその現場を実際に体験されたのでしょう。京橋、中津扇町公園、御堂筋など、私の故郷やなじみの場所が台詞にもあるため、かなり痛ましいです。手塚さんの自叙伝としてばかりでなく、反戦漫画、大阪の戦時中から戦後にかけての記録としても貴重なのではないでしょうか。当たり前のことですが、純粋な情熱こそは、苦難を乗り越えるというわけですね。それでは。

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