『ロングロングケーキ』の感想
漫画『ロングロングケーキ』(大島弓子選集第11巻・朝日ソノラマ)の感想を申します。ネタバレですから、ご注意ください。
約20~50ページの短編が7本、収録されています。そのうちの3本は、実家に単行本がありますけれども、『サマタイム』『サヴァビアン』『乱切りにんじん』『ジギタリス』は、未読でした。
お勧めは・・・・全部いいです。切ないです、泣きそうになります。特に、私はタイトルにもなっている、『ロングロングケーキ』が好きです。滅亡寸前の星から地球へテレポートして脱出した宇宙人の「宇さん」と、小説家志望の大学生、小太郎の、ほんわかした日常と、時空を越えようとするばかりの熱いラブストーリーが展開しますが、それは実際にあったことなのか、それとも小太郎の獅子夫(同じ大学生。要するに同性愛)に対する失恋によって創られた妄想なのか、という強烈なオチがつきます(ま、小太郎視線でストーリーは進みますから、大半の読者は、小太郎と宇さんは思いを通じ合ったと感じさせられるでしょう)。
平穏だと信じていた日常は、すでに崩壊していた『サマタイム』、異種であるはずの猫と、いつの間にか心を通じ合わせる『サヴァビアン』、母の急死後、暴君のような父と対決し、「お父さんは、実は宇宙人ではないか」と悩むものの、互いに不思議な接近をしていく『乱切りにんじん』。同姓同名、しかし外見と性格が正反対の同級生と出会い、彼を通じて様々な人々と知り合い、失恋と恋をする男子高校生の物語『ジギタリス』、風変わりな女子高生の体に平凡な主婦の魂が入って起こる騒動『秋日子かく語りき』、急死した妻が幼稚園児の娘に憑依し、イラストレーターの夫と乳児の息子に世話を焼こうとするが、うまくいかない『庭はみどり川はブルー』。
いかがですか? 大島弓子さんは、よく少女マンガの王道とか第一人者、女王とか呼ばれていますけれども、ストーリーはものすごくSFっぽいです。確かに、絵は実にかわいらしいですけれども、少女マンガのテーマである恋愛の要素が、やや希薄なのではないかと思います。男性ファンが多いのも、少しうなずけます。
絵自体はシンプルで、ふわっとしています(だから、真似にくいです)。吹き出しというか、台詞量はかなり多い。台詞、モノローグ、ナレーション部にせよ、実に詩的で情緒的な感じがします。例としては、次のとおり。
「ああ うれしい ほんとうよね ああ うれしい 日曜日ね」
「ええ 分かった 雨がふっても 行くわ 雪が降っても 嵐でも 雷がなっても 行くわ」(ジギタリス)
「毎日 少しずつ 永遠に ぼくは ラブレターを 書きつづけるんだ」
「ぼくの 永遠というのは こういうことなんだ」(ロングロングケーキ)
「おとうさん わたしね」
「わたし えんじゅの護衛を してるなんていったけど/ほんとは執着してるの ゆきたくないの ここにいたいの/ここでずっと 花をつくりたいの あなたとくらしたいの」(庭はみどり川はブルー」
すべてのストーリーが一応丸く収まっているのに、なぜこうも切なさが残ってしまうのでしょう? たぶん、両思いになったところで、すべての作品の底には、「それは永遠ではない。いつかは別れる、壊れる。宇宙に比べれば、自然と対峙すれば、人間なんてあまりにはかない。人生なぞは、ほんの一瞬」という、諦観があるのではないでしょうか。そして、空しいからこそ、「はかない時を抱きしめ、貪り合おう。それは人間にしか、できないことなのだ」と、マイナス地点からの超プラス発想が生かされているように思います。また、別の作品も読んでみたいですね。それでは。
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コメント
憑依妻のその最後の台詞が読みたかったのでタイトルで検索していました。
自分の夫を好きなお隣さん。の存在を知りながら、いつかは取って代わられるんだろうなとうっすらと感じつつ、でも自身の肉体はもうなくなっていて、でもまだ家族が大好きで離れられない妻の心情がすごく切なくて泣けてしまいます。
投稿: ありがとう | 2015年2月25日 (水) 23時35分
コメント、ありがとうございました。
わがブログが少しでもお役に立てたようで、うれしく思います。
うっかりと、コメント通知メールを移動させてしまい、返答が遅れ、すみませんでした。
投稿: 紅林真緒 | 2015年3月 3日 (火) 01時39分