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2010年5月22日 (土)

『人間交差点 ヒューマンスクランブル』の感想

 漫画『人間交差点 ヒューマンスクランブル』(原作:矢島正雄 漫画:弘兼憲史 小学館文庫)全19巻の感想を申します。ネタバレが少々含まれていますから、ご注意ください。
 1巻の初版は1994年12月10日、最終19巻は1996年7月10日、ビッグコミックオリジナルに1980年7月5日号から1990年12月20日まで掲載されていたそうです。私が独身時代から古本屋さんで買い集めていたのですが、最近になって14巻だけがないのを知り、これだけを定価で購入したという、ドけちなやり方で全巻をゲットしました。
 前後編、また片田刑事シリーズもありますが、30ページ未満のスタイルで1話完結です。ネタバレと申しましたが、全部紹介していては、このブログが『人間交差点』のみで埋め尽くされます。だから、印象的な3編(選ぶのが大変でしたけどね)をご紹介しましょう。

 脱獄を繰り返す男が語った、驚くべきその理由とは? 1巻第七話「黒の牧歌」。その男は極貧の中、犬のように生き、何者かに殺害された文子も、公衆便所呼ばわりされてきた女でした。その二人が出会い、言葉を交わさずとも胸がいっぱいになるという、彼女が死ぬまでのわずか3日間の恋の思い出を刑事に語ります。
 息子が大切に飼っていたハムスターの赤子の死を、どのようにして語ろうかと、迷う主人公が、今は亡き父のことを思い出す、16巻第二話「写真」。下品で粗暴な父が転落死した時、主人公は実は深く愛されていたのだと、父の胸のポケットに収められていた写真を見て悟り、「どうして父の愛にこたえてやれなかったのか」と、号泣したのでした。
 無気力で頭のおかしい父は、終戦後の混乱を生き抜くため、そんなふりをしていただけだった。そして、かつては旧ソ連のハバロフスクで、ロシア人の少女と燃えるような恋をしたのに、現在は守銭奴となった息子を激しく責め立てる、14巻第七話「父」。
 1巻2巻は、刑事物というか、サスペンス調だったのですが、次第に、一般の老若男女の日常のお話になっていきます。帯カバーの、「オムニバス作品集」「珠玉の短編集」というキャッチコピーは、ぴったり。例にあげたものが、よくなかったかも? それでも、人が死ぬ話は多い・・・・かな?
 安っぽいお涙ちょうだいストーリーと、いえなくもないのですが、ひね紅林と呼ばれる私も、結構泣かせられました。原作者の矢島正雄さんは、テレビドラマの脚本家をしておられいるためか、台詞がリズミカルでいい演出をするのです。取り上げたいのは山々ですが、長文になってしまうし、どの台詞を選ぶか、また迷ってしまいますから、残念ながら断念。ベタかもしれませんが、平凡な登場人物達の設定、台詞、演出、ストーリー展開を学ぶという点では、漫画家や小説家志望の方にもよいかと、私は思います。
 そうやって、研究するつもり満々の私でも、何度となくページを止めて泣いたり、うなったりしましたから、おもしろい作品は理屈ではないのでしょう。
 漫画の弘兼憲史さんは、『島耕作シリーズ』で有名な漫画家ですね。最初は荒れているというか、人体のバランスが悪い絵でしたが、回が進むほどに、めきめきと、この方の持ち味である、白黒のメリハリの効いた、瞳が美しい、和風な色気のある人物へと、上達していかれています。弘兼憲史ファンにも、損をさせないシリーズですね。
 私は、実は弘兼憲史、岩明均、市東亮子、この三人の方の絵がものすごく好きです。また、どなたかの代表作をここでレビューできますように。それでは。

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