『その名は101』(横山光輝)の感想・その1−前書き(加筆修正版)
漫画『その名は101』(横山光輝 秋田書店・秋田文庫全3巻)の感想を申します。例のごとくネタバレがあります。さらに、このお話や『バビル2世』の巻数はすべて文庫本版の方で、単行本とは異なっていますから、ご注意ください。
このSF漫画の主人公は、16歳の少年で、アメリカのCIAから「101(ワンゼロワン)」というコンピューター登録番号(コードネームか?)で呼ばれています。本名は山野浩一、別名「バビル2世」! つまり、『バビル2世』の続編というわけです。ここ何年くらい前からでしょうか、ベストセラーとなった名作を、作者あるいは別の作家様が、続編や別編として描くことが多くなってきていますね。そして、私の知る範囲では、2作目が1作目を越えるヒットを飛ばしたり、反響を呼んだりしたことは一度もなかったように思います。巨匠とうたわれる横山光輝さんも、残念ながら、この「2作目はヒットしない」というジンクスを破ることはできなかったのでしょうか? 分析する前に、まず、いつものとおり、『その名は101』のあらすじを簡単に申しましょう。
山野浩一自身の超能力、自己再生能力などのパワーは、前作『バビル2世』と変わりません。『その名は101』では、これに、「浩一の血を輸血されたすべてのもの(動物も含めて)は、彼と同じ力を持つようになる」という設定が加わりました(こんなに汎用性が広い血液型はO型でしょう。浩一がO型であることは、確定的かも)。最初、浩一はCIAの研究所に滞在し、「君の血液は特殊で、死にかけている病人に活力を与えて助けられる」という研究者達の言葉を信じ、血を提供してきました。ところが、実際は、CIAは浩一の血液で超能力を持つ諜報員者達を創りだし、スパイ、敵国の要人暗殺、政府転覆活動、戦争等のよからぬ活動に役立てていることを察知し、嵐の日に逃走します。
浩一の目的は、自分の血によって生まれた超能力者達を、残らず抹殺すること。なおも浩一の血を役立てたいCIAは、最初のうちは説得して再び捕らえようとしますが、彼は激しく拒否します。他国に浩一の血を利用されるよりは、いっそのこと殺せ、とCIAは判断し、こうして浩一対超能力者の血みどろの戦いが始まります。最新兵器、国家権力(浩一に麻薬取引の罪をでっち上げるなど。その上、S国諜報部まで加わります)、浩一の知人や彼女(実は彼女、S国スパイでしたが)まで利用され、彼は毎回(第1回、2回と2巻のドミノ、最終回までの後半を除けば、ほぼ一話完結)、心身ともに深く傷つきますが、エネルギー吸収と自己再生能力によって、CIAを圧倒していきます。
そんな折りしも、呼びかけに応じず、所在不明の三つのしもべに関する情報および解放と引き換えに、浩一の血を要求する、謎の一味が接触してきます。浩一は承知して、しもべ達が無事に脱出した後、彼らの正体を探ります。彼らはサルタン ブラザース カンパニー、通称SBCと呼ばれる、アメリカ有数の大企業で、偶然、第3部のヨミの遺体を回収し、CIA関連から浩一の血の秘密を知って、ヨミを生き返らせようとしていることが判明したのでした。動転した浩一は傷つきながらも、必死でヨミの居場所を突き止め、互いに至近距離からピストルを撃ち合います。ヨミは倒れるものの、浩一もおびただしい血のあとを残して、追っ手から逃れます。結局、その行方は知れないまま、浩一は生死不明となったのでした。
『その名は101』は、前作の『バビル2世』に比較して、ツッコミどころか、設定ミスか? と思われるところさえ見受けられます。次に、いくつかの例を述べましょう。
1.時間の流れが不明。
普通に考えれば、この作品は『バビル2世』第4部の続きであるはずです。ところが、一回だけしか登場しない(バベルの塔は最後まで出番ゼロ)三つのしもべのうち、ロプロスは生きているし、しかもロボットであったのに、ふさふさの毛皮に包まれています。では、第3部の途中なのか? それにしては、浩一が大人びています。これは、ウィキペディアによれば、第4部(単行本12巻)が発行されていなかったので、横山さんは第3部とストーリーをつなげたそうです。けれども、旧スタイルのロプロスと、成長した浩一の姿には首をかしげてしまいます。
2.ヨミが登場する。
1の問題点とも重なりますが、ヨミの登場によって、『その名は101』が『バビル2世』の、主人公だけが同じで中味が違うパラレルストーリーと判断し辛くなってしまいました。しかも、これはパラレル? でも続編っぽい? と、しっくりしない感じを抱いたまま、最終回を迎えます。
ヨミのファンの方には申しわけありませんが、私は彼が登場しないで、ひたすら浩一と超能力者達との戦いに終始してほしかったです。そうすれば、SFハードアクション漫画、サイキック・ハードボイルド・アクションなどと位置づけられ、甘さのかけらもない、正統派ハードボイルドと感じられましたから。へろへろした、上っ面だけのハッピーエンドよりも、まったく救いのないストーリーの方が、かえって、すっきりするでしょう? やはり、救いのないお話ですから、横山さん自身も描いていて辛くなってしまい、ヨミに幕引きを頼んだのでしょうかね? ああ、これで浩一とヨミが、まさに血を分けた兄弟に・・・・。
3.最終回、浩一が生死不明。
読者としては、本当にストレスがたまりますね。もっとも、私は、ヨミならあれしきのことで死なないし、浩一はきっとロデムに助けられて、バベルの塔へ引き上げたのだろうと、予測していますが。
4.浩一の行動、能力が矛盾だらけ。本当は、大した超能力者ではないの?
ヨミとその組織に大ダメージを与えた三つのしもべ、さらには第3部ではヨミになかなかつかまらなかった浩一が、なぜ簡単にアメリカのCIAによって、捕らわれの身になっていたのか。大掛かりなトラップ、複雑な経緯がありそうなのに、説明もエピソードもありません。欲求不満!
しかも、浩一はテレパシー能力があるくせに、初めに登場する研究所員が、自分を悪用しようとしていることがわかっていませんでした。1巻の『おとり』では、最後まで女スパイの正体を見破れません。
私は、たぶん、浩一のテレパシーは、他の能力よりやや劣る節があるように思います。『バビル2世』で、ヨミが部下に化けたロデムを見破るシーン(文庫本1巻)がありましたが、浩一は常時テレパシーを使っていないようです。アメリカで自動車などの事故に巻きこまれて運ばれた入院先にて、CIAから催眠術にかけられたのでしょうか? あと、『バビル2世』では、戦っている最中こそ、これでもかとテレパシーを使っていましたが、一般人にはあまりやらなかったように思います。テレパシーって、持たざる者にとっては、すごくいやな能力ですから、浩一は意識的に使わないようにしていたのかもしれません。
そして、浩一は1巻の『おとり』『『追跡』、2巻『空中爆破指令』で、日本に帰りたがっていましたが、何のため? 君が帰るのは、バベルの塔ではないの? 国家保安局の伊賀野(もちろん、今回は出番なし)に助けを求めたかったのでしょうか?
最終回近くで、浩一の行動が三つのしもべ解放とヨミ打倒に向いてしまい、恐らく101計画を立案し実行した、諸悪の根源ともいうべきCIA局長は、のうのうと生き延びます。抹殺した超能力者達も、最後はかなりつまらないやつになっていましたが、全員倒せたかどうか、はっきりしません。おいおい、それでいいのか、正義の味方!
5.戦いの決着がワンパターン。
『その名は101』は、超能力者同士のバトルとはいえ、銃火器類、ナイフ、地雷、時限爆弾、殺人兵器等、非常に残酷で血なまぐさいものです。いろいろあって、浩一は追い詰められる。→最後は、エネルギー衝撃波を吸収して相手を消耗させ、倍返しにしてとどめを刺す。大半の敵が、このパターンだけで倒されてしまいます。
おっと、不思議な魅力を持つ作品ですから、たくさん述べましたね。批判的なことばかり申しましたが、私が『その名は101』で泣いたのは事実です。次は、本編の魅力について語ります。少々、腐女子モードが入りますが、お許しください。それでは。
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『その名は101』(横山光輝)の感想・その2−浩一の魅力全開(加筆修正版)!
『その名は101』(横山光輝)の感想・その3−ここが(萌え)ポイント(加筆修正版)!
(追記)最初、あらすじがありませんでしたが、わかりにくかったので、加筆しました。他にも、あちこちを修正しています。未熟者で、ごめんなさい。2010年7月28日14時12分
(追記2)女スパイ、銀鈴(ぎんれい)が登場するのは、1巻「標的」ではなく、「おとり」でした。さらに、誤字を修正。すみませぬ。2010年8月11日17時01分
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