『その名は101』(横山光輝)の感想・その2−浩一の魅力全開(加筆修正版)!
漫画『その名は101』(横山光輝 秋田書店・秋田文庫全3巻)の感想の続きを申します。ネタバレがありますので、ご注意ください。それから、例示している巻数はすべて文庫本によるもので、単行本とは異なります。
それでは、最初にいただけない点から述べましょう。表紙に描かれている、浩一の服装の色配置が、カラーコーディネートを学んだ私としては、どうもしっくりしません。1970年代後半は、男性の白っぽいジャケットやセーターが流行していたのでしょうか? 浩一の赤い髪や瞳とかち合い、無駄にケバい感じに見えます。
前回の『その名は101』(横山光輝)の感想・その1-前書き(加筆修正版)で取り上げましたが、インパクトの強い作品ゆえ、矛盾のない設定やストーリーこそ重要だと言われる方、弱者や善人が苦しむ、後味の悪い話が嫌いな方には不向きでしょう。さらには、浩一が女の子といちゃつくなんて許せない、という方も。そう、『バビル2世』では、由美子と親しげに話すだけだった彼が、バッチリと、いちゃついてますよ。信じられないでしょう(1巻「おとり」)?
『その名は101』の魅力は、第一に、CIAをメインとした国家組織の強大さと非情さがあると思います。ヨミは以前の『バビル2世』でも、3巻収録「よみがえる死者」でも、浩一のみにロックオンして戦っていましたね。何とフェアで良心的なことか! ところが、『その名は101』では、浩一の窮地を救った少女はネズミの大群に食い殺され(1巻「超人脱出」)、お隣に住む仲良しの少女は、浩一をねらって仕掛けられた時限爆弾によって、骨さえ残さず爆死(2巻「殺人鬼」)。2巻『空中爆破指令』では、CIAは浩一の他にも、アメリカに非協力的な某国大統領をもねらったため、最後は浩一を除く、全員が殺されます(このエピソードは、後でゆっくり)。CIAは、時には味方の者さえ切り捨ててしまいます(2巻「テレパシー」。お隣の少女を殺されて激怒した浩一は、強烈な憎悪のテレパシーを発し続けて、標的であるドミノを発狂させる。そんなドミノを持て余したCIAは、「101【ワンゼロワン=浩一】がドミノを倒せば、やっかい払いできるし、ドミノが101を殺すのもよし」として、ドミノの潜伏先を浩一に教えます)。このような組織の残虐さは、大半のお話が、浩一がエネルギー衝撃波を撃ち返してとどめを差す、というパターンで終わっているにも関わらず、彼を心身ともに打ちのめし、毎回、手ひどい苦痛を与えます。
そう、この漫画最大の特徴であり魅力は、浩一の表情の豊かさと内面描写の多さに尽きるでしょう。『バビル2世』であった頃は、「おいおい、本当に中学生か?」と、何度もツッコミたいほど、ヨミ側を分析し、戦略を考え、攻めたり逃げたりしていて、ロプロス撃墜にも、「よしロプロス このぼくが おまえのあだ討ちをしてやる」と、残念そうに言うにとどめていた(『バビル2世』8巻)のに、恋はする(1巻『おとり』)、少女の死を嘆いて涙を流す(2巻「殺人鬼」)。まさか、泣くとは思いませんでしたよ! それに、小さなことですが、『バビル2世』で一人称の大半が「ぼく」でしたが、このお話では1話につき1回以上、「おれ」と言っており、かわいい少年から、大人っぽく成長しています。時には、次のとおり、CIAや大人連中を煙に巻くような言動(1巻「赤毛のジャック」)までしています。
浩一(車内で銃口を突きつけられて、「少し 少しはなしてくださいよ/もうちょっと」と言って、手で押しのけた後)「ところで 銃ってのは 銃身に少しのものでもつまったまま 引き金を引くと 爆発するんだってね」
CIA局員「それがどうした」
浩一「おれ 今 銃にふれた時 銃口にものをつめちまった」
(「なにっ」「なんだと」と色めき立ち、銃を構えなおす局員達)
浩一「まあまあ(微笑して、両手を上げて彼らをなだめ)おどかすわけじゃないが ぼくの指先は こんなことだって簡単にできるんだ」
(と、テレキネシスで即座に手錠を破壊。中略)
浩一「うそだと思ったら 引き金を引いてみたら・・・・たちまち爆発するよ」
(実は、浩一は銃に細工などしていなかった、というオチがつきます)
1巻は特に、拷問にあうなどして、上半身を見せているシーンが多いのですが、しっかり腹筋は割れていました。たぶん、バベルの塔でも筋肉トレーニングを行なっていたのでしょう。
しかし、浩一は肉体的に強くなっていても、精神的には・・・・どころか、かなりもろいところを見せています。その最たるものが、2巻「殺人鬼」で、お隣の少女の死によって彼が見せた、苦しい涙でしょう。CIAがねらっているから、自分に関わると危険であることは、浩一が百も承知していたでしょうに、それでも(恐らく)ちょっとしたきっかけで、少女と仲よくなった。彼女だけは、危険に巻きこむまい、と決心していたのでしょう。冷静に考えれば、浩一のテレキネシスで、少女の抱えていた時限爆弾装置つきの人形を強引に引きはがすこともできたと思われます。が、浩一は焦っていて、彼女をなだめるだけ。彼女はお気に入りの人形だから、手放したがらない。そうこうするうちに爆発し、浩一は軽傷ですみましたが、少女は骨の一片もとどめず死亡。そうやって、浩一は涙を流したわけです。
たぶん、いいえ、きっと、浩一は、欠点というより個性なのでしょうが、とても寂しがりやなのではないでしょうか。加えて、私の嫌いな、闇雲に正義を信奉しているタイプの主人公ではなく、芯から善良なのだと思います。そうでなければ、2巻『空中爆破指令』で、自分も負傷しているにも関わらず、ケガ人達に血を与えるはずがありません。それに、浩一の血は、輸血された者を超能力者にしてしまうのです。せっかく今までいやな思いをして、CIAの超能力者達を殺してきたのに、また自分の血による超能力者を増やしてしまう恐れがある。だったら、本当に善良な人間だけ助けようと割り切ればいいのに、負傷したすべての乗客達に血を与えたのは、彼らの苦しみを見ていられなかったからでしょう。実は、『空中爆破指令』こそ、私が大泣きしたお話です。
簡単にストーリーを説明しますと、浩一の乗った飛行機には、反米的なパラミンゴ大統領も同乗していた。CIAは大統領を亡き者にしようと、パイロットを殺すが、浩一が操縦して胴体着陸成功(バベルの塔の教育の成果か?)。けれども、重軽傷者が多いため、浩一は老医師を手伝って自らの血を分け与え、彼らはどんどん回復していきます。それはCIAの超能力局員アーネストが知るところとなり、浩一が皆に代わって水を探しに出るや、テレキネシスで岩石を浴びせて、浩一を生き埋めにしてしまいます。さらに、アーネストが危険な毒虫を放ったため、乗客達は次々に絶命します。任務の締めくくりに、アーネストが101の死亡を確認しようと岩石を取り除いた瞬間、浩一は復活し、エネルギー衝撃波で彼を倒します。最後のページのナレーションで、遭難現場は発見されたけれども、助かった乗客も新種の毒虫に刺されて全員死亡しており、誰も詳細はわからなかった、と静かに結ばれています。
これのどこが泣けるかと申しますと、浩一の命がけの献身、優しさがまったくむくわれなかったことです。飛行機が遭難して、浩一自身も疲労困憊だったにも関わらず、貧血気味になってまでして、がんばって輸血し、誰も死なせまいとしたのに、無残な結末に。最初読んだ時はスルーしたのですが、二度目になって、私はナレーションで省略されていた浩一の姿を、想像することができました。CIA局員がいたということは、乗客を襲撃したのかもしれないと察して、浩一は悪い予感に襲われながら、元の場所へ戻ります。そこで彼が見たのは、大統領だけでなく、自分と一緒に看護した気のいい老医師、水が欲しいと言っていたCAの女性、自分の血によって完治しつつあった乗客達の、折り重なった無残な遺体。浩一は驚愕し、次の瞬間、絶叫、声の限りに号泣。ヨミをも恐れさせる超能力者でありながら、誰一人救えなかったこと、そしてバビル2世である自らの宿命を呪い、絶望したのでしょう。
いや、浩一、君はまったく悪くない。悪いのは、目的のために手段を選ばない、CIAなのですよ。両親、由美子、局長、伊賀野、ロデム、いや、誰でもいい。この傷ついた天使を助けてあげて。黙って寄り添うだけでいいから! しかし、浩一はどうしようもなく孤独なのですよね。寂しがりやなのに、孤立無援なんて、痛ましすぎる・・・・。
私、やっぱり泣けてきました。今はもう無理っぽいです、ごめんなさい。次は、もっと軽めの女性ファン視点にて、『その名は101』の感想を締めくくらせていただきます。
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(追加)1巻「赤毛のジャック」にある、浩一の台詞を加え、「この痛ましい天使を助けてあげて(以下略)」→「この傷ついた天使を助けてあげて」に変更、それ以外にも修正しました。すみませぬ。
きっと、これからも、いろいろな作品で加筆修正すると思いますが、紅林の特性だなと、ぬるーく見守ってやってください。2010年8月5日 3時36分
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