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2010年8月12日 (木)

『セカンドマン』(横山光輝)の感想

 漫画『セカンドマン』(横山光輝 講談社漫画文庫)の感想を申します。ネタバレがありますので、ご注意ください。
 これは、『小学四年生』(小学館)1974年5月号から1975年3月号まで連載されていたものを収録しています。だから、20ページほどで1話終わるごとに、次のページには「今までのお話」という、あらすじが載っています。巻末には、扉絵が3話分。どうせなら、全部載せて欲しかったです。解説はありません。本文236ページで、価格が税別667円というのは、漫画文庫本として少々お高めですが、苦労して、古本屋さんを探すよりはいいでしょうね。

 お話は、割とシンプル。5〜8歳頃の少年、健児は、すぐれた超能力(ほぼ『バビル2世』と同じ。ないのは、自己再生能力のみ)を持ってしまったために、人々から恐れられ、孤立してしまいます。そこで、父親が開発した冷凍ボックスに入り、誰もが自分のことを忘れているだろう50年後の未来まで、冷凍冬眠(コールドスリープって書きたい!)に入りました。時満ちて、健児はコンピューターによって目覚めさせられますが、幼かった自分はなぜか10代後半まで成長しており、同様に冬眠していた人々は冷凍ボックスが壊れて死んでいます。そして、建物は廃墟で、まったくの無人。コンピューターの故障で、何と200年も先の未来に目覚めてしまったのでした。
 誰もいない、荒廃した道を歩き続けて、健児はようやく、大勢の人々の暮らす近代都市に到着しますが、早々に空を飛ぶ、武装した兵士のような男に襲われます。それは人間ではなく、A1(アタックワン)ロボット。健児は謎のテレパシーに応じて、A1を超能力で倒しますが、今度は助言者が巨大トカゲに襲われてピンチに。急いで、健児が駆けつけ助けたところ、その未来人達は、実に醜い姿格好。けれども、ユミという少女だけが、健全な体の持ち主でした。
 案内されるまま、健児は未来人達の洞穴に行き、このように不自由な生活をしなければならなくなった経緯を聞きます。公害と環境悪化によって、残り少なくなった資源を奪い合って戦争が始まったのでした。人々がコンピューターにすべての管理を任せたため、戦争は長期化し、大半の人間が死に絶えてしまいます。そして、破壊されずに残ったコンピューターが、以前のプログラムのまま、都市を造り、認識できない人々すべてを敵と見なして、襲撃しているわけでした。健児は人間らしく生きられない現状に怒り、冬眠していた研究所のコンピューターの助けを借りて、都市のプログラムを変更するよう主張し、彼らに受け入れられました。
 途中、攻撃型ロボット、メデュウサに襲われるものの、健児はユミと協力して、研究所から武器とプログラム用テープを持ってきます。いよいよ、都市へ突入! しかし、多数のA1ロボットに未来人達は次々と倒れ、健児はユミと二人で必死にコンピューター室へ入ります。催眠ライトの妨害(バベルの塔みたいって? そのとおり)、自動攻撃装置などありましたが、健児の超能力がまさって、プログラムが変更されます。健児とユミは喜んで未来人達に呼びかけましたが、答える者は一人もおらず、皆、死んでいました。「ほんとうにアダムとイブのようになってしまった。」と、呆然とする健児に、嘆くユミ。健児は、「ぼくたちで第二の人類を栄えさせるんだ。」と語り、ユミの肩を抱きしめるのでした。

 小学生向け漫画と、あなどることはできません。酸性雨、地球温暖化と、現在大問題になっている環境破壊の恐ろしさがわかりやすく述べられています。三十年以上も前の作品なのに! ですよ。
 見どころはまず、そのような設定と、ロボットのデザインですね。一見、ジェット噴出装置? をつけたスーツ姿の人間っぽいA1、ギリシア神話の怪物そっくりなメデュウサ(健児の敏捷な動きとテレキネシス、ピストルにより破壊されます)、健児のいる研究所を攻撃する、鳥のようなロボットなど。一見、古めかしいシンプルなデザインですが、やがて、それがベストの形のように思われるから、不思議です。
 もう一つは、見境なく人間を襲う都市と、健児の眠っていた研究所にあるもの、それぞれのコンピューターの差異。研究所のコンピューターは、戻ってきた健児とユミを助けて、知識や必要な品々を備え、襲撃者から守って、攻撃解除プログラムまで用意します。どちらが悪いというのではなくて、最初にプログラムしたのは、両方とも人間なのですよね。コンピューターは便利で役に立つけれども、心はなく、最初に作り出す人間次第で、どうにでも変わるということでしょうか。これはなかなか、良し悪し、好悪は別として、手塚治虫さんが『鉄腕アトム』『火の鳥』等の作品で頻出する、「ロボットにだって心はある!」という理論と、真っ向から対立していますね。それでは、以前、『少年』という雑誌では、「心はある」派の『鉄腕アトム』と、「心なんてない」派の『鉄人28号』で、人気を二分していたわけですか。
 ところで、この作品は学習雑誌に掲載されていましたから、エロいシーンなどないはず・・・・大丈夫、あります! あらすじで省略しましたが、健児が、未来人の老人(年齢不明ですが、ユミが「おじいさん」と呼んでいましたから、老人にしておきます)に初めて出会った時、「はだかを見せてほしい、昔は大勢いた美しかった人間のほんとうのすがたが見たい」と、強く要求されます。ユミは慣れているのか、モデルのように脱ぎますが、健児は「わかったよ。」と、ひるみ、戸惑った表情(この顔がかわいい!)で応じます。ま、初対面の相手に、真昼間に野外で全裸になれと頼まれたら、誰だってそうでしょうけれども。裸になった健児とユミの姿(あいにく、逆光で二人の体の輪郭しかわかりません)に、老人は感動し、「きみたちは まさしくアダムとイブじゃ」と涙して、その場に平伏します。この場面は、セカンドマン=第二の人類の重要な伏線になるわけですが、堂々としたユミ、恥ずかしそうな健児、まぶしい屋外、老人と、こういうシチュエーションだけでも、充分にエロいではありませんか。得したなあ。
 それから、この近未来ハードSFアクションの持ち味を、根底からひっくり返す表現をさせていただきましょう。

 実は、『セカンドマン』は、恥ずかしいほどの極甘恋愛漫画なのです!
 
 なぜなら、初めて会った時、ユミは恥ずかしがりもしないで、小さく頬笑んで健児を見つめて近づき、健児もそんなユミをじっと見入っていましたね。これって、童話でよくある、「誰それと王女様は、ひと目見るなり、すっかり好きになってしまいました」という、シチュエーションそのままですよ。以降、この二人はいつも一緒。離れたのは、健児がメデュウサと戦った時だけ。その結果、老人三人が亡くなりますが、二人は墓を作った後、手を握り合って研究所へ向かいます。さらに、警戒警報が出てシャッターが下りた時は、互いにすがりついています。特に、健児は何かというと、ユミちゃんユミちゃんと語りかけ、彼女の肩や手に触れていましたね。初めてできた友達、しかも女の子というのが、うれしくてたまらないのでしょうか。もう、砂糖を吐きそうです(苦笑)。
 冬眠前の健児は、見かけの割に話す内容が大人びていましたから、ようやく外見と精神年齢が一致したようですね。ユミも援護攻撃をする、しっかり者ですし、この二人が友達から恋人同士になるのは、簡単でしょう。第二の人類を栄えさせるという、大役をになうことになりましたが、孤独でなくなった健児は、きっと幸せです。遺伝の問題は、コンピューターが何とかしてくれるのではないでしょうか。大勢の未来人が死ぬハードな展開、現代人の抱える問題を告発していますが、ハートウォーミングの内容も無視できないと、私は思います。それでは。

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横山光輝作品」カテゴリの記事

コメント

毎度ブログ楽しく拝見させていただきました!101の感想もとても共感できる内容で良かったです!
 
このセカンドマンは初耳というか知りませんでしたが、
なんというスケール!とても興味津津
必ず手に入れて読みたい!と思いました。
素晴らしいレビューでした!
毎度有難うございます!(^^)
バビルリターナーも購入したのですが、
絵は今っぽくて上手いかも知れんけど、
やはりテンポや読み易さは横山氏の足元にも(以下略^^;)
 
やっぱり横山先生の漫画すげーと再確認させられました!

投稿: ざびたん | 2010年8月24日 (火) 08時14分

 ざびたん様、コメント、ありがとうございました。
 そして、ライブに浮かれてしまい、返信が遅れてすみませぬ。

 えっと、喜んでいただけて、何よりです。
 本人は、ほめられると踊る、変な癖がありますので、お気持ちをありがたく受け取らせていただきますね。
 横山光輝作品は、感想を書いてもらいたがっている漫画本が目白押しですので、よろしかったら、またご訪問ください。

『バビル2世 ザ・リターナー』ですね。
 確かに、魅力があるような? 人気があるような? はっきりしないですけれども。
 図書館に、横山光輝先生の『バビル2世』が置いてあったことを、私に気づかせてくれたのですから、すばらしい縁をもらったなと、感じ入るのです。
『ザ・リターナー』がなければ、「横山光輝は同じ顔の男性ばっかり描く、センスの古い漫画家」という、間違ったイメージを抱いたまま、『バビル2世』に触れもしなかったでしょうから。

 しかし、それはそれとして、本当にしっかりした構想を立てて描いているのか? 片手間で描いているから、大ゴマを使うのではないか? と、疑っているのも事実です。
 現在、『ザ・リターナー』の単行本は店頭、オンラインとも品薄状態ですが、そのうちに、中古本ででも私の手元へやって来たら、存分にレビューしてあげようと思います。
 その上で、『ザ・リターナー』が傑作か、トンデモ本か、見きわめてみます。
 何だか、おかしな返信でしたね。それでは。

投稿: 紅林真緒 | 2010年8月25日 (水) 02時33分

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