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2010年9月22日 (水)

『あばれ天童』(横山光輝)の感想(お待たせしました!)

 漫画『あばれ天童』(横山光輝 講談社漫画文庫全4巻)の感想を申します。この作品に加えて、今回は、『男組』(原作:雁屋哲 作画:池上遼一)に関しても述べておりますので、両作品のネタバレにご注意ください。

 この作品唯一の不満なところは、天童は関西(1巻で、石倉が阪南学院で天童と一緒だったと言っていましたから、大阪か?)出身者なのに、なまりがない! 石倉、頑鉄もしかり、さらに、キザ男は実家が通天閣そばにあるらしいのに(3巻)、三人の姉ともども、標準語? なぜ? 首都圏が舞台になっているのだから、ふだんは標準語でも、感情的になると、大阪弁になってしまうといった設定の方が自然なのに。もっとも、横山光輝作品の登場人物は何となく大阪弁が似合わない、ドライでシャープなイメージはありますが。
 はい、納得できないのは、それだけです。『あばれ天童』はジャンル的に、今や絶滅種となった番長達が活躍する漫画なのですが、私は番長というものを知っている世代ですので、違和感なく読めました。
(ご存じない方に説明いたしますと、番長というのは、自分の高校を、ケンカの強さとカリスマ性においてまとめる、男子高校生のリーダー格のことです。校内外のもめごとを解決することもありますが、はっきり言って、不良かそれに近く、子分がいることも多いので、極道に似ています。漫画家様の表現によっては、暴力団顔負けの無法を行なったり、他の学校と戦ったり、番長の座をめぐって男子同士で争うこともあります)
 各巻末では一人、2巻のみ二人、それぞれ解説しておられますが、1巻の横山光輝研究家、飯城勇三さんと、4巻の漫画評論家、米沢嘉博さんについて取り上げましょう。飯城勇三さんは、この漫画を、「学園三国志」と位置づけておられ、『男組』を、「暴力だけの学園マンガ」と述べておられますが、少し違うと思います。なるほど、天童が劉備に、柚木が曹操に確かに似ていますが、三国志と異なって、二人は和解しますし、では孫権にあたる人物は犬神ですか、いや違うでしょう、とツッコミを入れてしまいましたよ。さらに、一ファンとして申しますが、『男組』は、最初こそ主人公とライバルの番長対決でしたが、終盤は「真の自由と平和を求めて」政財界の黒幕に戦いを挑むという、壮大なレジスタンスストーリーなのです。メインキャラクターが銃火器によって、次々と倒れていく後半の展開は、
今時のヤンキー漫画が色あせて感じられるようなハードさを持っているのです。批判的なことばかり述べましたが、横山光輝さんがエッセイなどで、「少年時代は“ケンカの横山”と言われ、ケンカでは負け知らずだった」と言っていましたが、『あばれ天童』では初めてそれが反映された、唯一の作品である、と述べられているのには、非常に納得がいきました。道理で、主人公達に体育会系の雰囲気を感じられたわけですね。貴重な情報、ありがとうございます。
 だから、私は、4巻巻末で米沢嘉博さんが述べた、「横山光輝作品の中で特異な光を放っている」「魅力的で人を集めてしまう天童とその仲間たちの関係は『水滸伝』で描かれたドラマではなかったのか」という説の方に、賛同いたします。
(ちなみに、米沢嘉博さんはコミックマーケットを開催された前代表で、2006年にお亡くなりになりました。同人誌製作者すべての大恩人です。合掌)
『あばれ天童』で、特筆すべきなのは、天童とケンカになる→彼に魅せられ、兄貴とあおぐ(1巻・石倉)、慕う(1巻・頑鉄、2巻・キザ男)。または、負けたのにも関わらず、「スポーツをやったあとのようなさわやかさだ」と、武器を捨てる(1巻・番長連合の学生)。握手して和解する(3巻・柚木、4巻・東地区の番長)。などと、喧嘩だらけなのに、驚くほど平和的に締めくくられています。天童が空手、テニス、剣道をやる場面がよくあり、彼の感覚からすれば、スポーツと、「学生らしく戦う喧嘩」は近しいものらしく、「ぼくはケンカも青春だと思っている/だから買ってもいい/だがヤクザのようなケンカはきらいだ」(1巻)と、言っています。え、青臭い? 恥ずかしい? 天童の台詞、恥ずかしいものが多いのですよ! 下手すると、ギャグになってしまいそうなのですが、天童自身は生真面目な性格なので、読んでいても、妙に納得してしまいますね。
 ウィキペディアやWEBで、横山光輝作品の特徴を見聞された方は、一応に『あばれ天童』には驚かれると思います。絵柄は変わっていないのに、今までの作風のパターンを易々と越えているのですから。
 特徴その1は、ギャグシーン、デフォルメされたユニークな表情などが頻出。担当は大半が、女言葉を使うキザ男。
 特徴その2、ヒロインが三人も登場! しとやかで料理の上手な、すみれの君、テニス好きのバラの君、「将来は結婚するの」と、天童や石倉にまで圧力をかける、ひまわりの君と、それぞれ個性的なのですが・・・・残念ながら、存在感は、キザ男一人に食われてしまいました。
 特徴その3、天童はもちろん、石倉、頑鉄、キザ男と、心情、過去などの内面、趣味、家族などを、非常に細かく、深く描写されています。しかし、それがたたってか、私は番長連合と天童の戦いを描いた前半の方が、犬神にまつわる陰惨な闘争、天童の過去の傷という展開の後半よりも気に入っています。
 私がもっとも印象に残ったのは、柚木、石倉、キザ男です。柚木は顔が大好きな曹操だから(すみません)なのですけれども、天童と和解して温厚になった表情よりも、前半の、大金持ちの御曹司(テニスコートがあって、じいやのいる家は庶民ではないでしょう)で優等生だけど、番長連合を束ねているという設定、妹のバラの君の前では平和的にふるまいながらも、天童を圧迫する(2巻)凄みに惹かれます。石倉はよくも悪くも、学帽が似合いすぎ! 片目をちらりとのぞかせる渋い男子高校生なのに、帽子を取ると、ただの人なのは惜しいです。「おれは天童が大好きなんだ」(1巻)と、頑鉄、岸和田に堂々と告げ、天童がバラの君と話しこんでいるのを、鼻くそをほじくってつまらなさそうにし(1巻)、天童の外遊を知って呆然とうなだれる(4巻)と、うわぁホモ臭い! 卒業したら、天童の後を追って海外へ行くのではないでしょうか。キザ男は、くどいほど女言葉なのに、ケンカが大好きという、不思議ちゃん。しかも、身の軽さと素早さは、バビル2世を思わせます。2巻の、ハヤテのオートバイに乗せてもらった時の台詞が、この漫画のテーマを表しているように思いますので、長いですが、書き留めます。

ハヤテ:「てめえ なにをはしゃいでいやがるんだ」
キザ男:「あら だって天童さん公認でケンカできるんでしょ/あーあ この青春のときめき この心のうずき・・・・」(うっとりしたポーズ)
ハヤテ:「いいかげんにしねえか」
キザ男:「おんどりゃ だまってケンカの場所につれていけばいいんだ」
(ハッとして)「あら あたしとしたことが はしたない/やはり 少し興奮してんのかしら/やーねぇ」
(舌を出す)「でも やっぱり この興奮はおさえきれないわ」
(中略・そっくり返って)「青春万歳 ケンカ万歳」

 言うなれば、横山光輝による学園熱血「コメディ」、それが『あばれ天童』。お勧めです。それでは。

参考記事 『あばれ天童』(横山光輝)のあらすじ(感想じゃないですよ!) 

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