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2010年9月 3日 (金)

『白髪鬼』(横山光輝)の感想

 漫画『白髪鬼』(横山光輝・講談社漫画文庫)の感想を申します。ネタバレがありますから、ご注意ください。
 5編の中短編が収録されています。『白髪鬼』(江戸川乱歩原作)は週刊少年キング(少年画報社)1970年4月5日号掲載とされていますが、本当でしょうか? 全5回の短期連載のスタイルで、およそ200ページと、収録作品のうち、もっとも分量があります。『大暗黒』(小栗虫太郎原作)週刊少年キング(少年画報社)1969年8月24日号掲載、『魔界地帯』別冊少年マガジン(講談社)1972年1月号掲載。『邪神グローネ』小学六年生(小学館)1977年9、10月号掲載。『俺はだれ?』プレイコミック(秋田書店)1980年4月号掲載。タイトルの示すとおり、サスペンス、ミステリー調の強い作品で占められています。私は以前の『闇の顔』よりも、こちらの方が好きかもしれません。それでは、順不同に行きます。

『大暗黒』、アトランチスという説もある、北アフリカの大暗黒と呼ばれる人跡未踏地帯へ、山座と先生、仲間達は冒険の旅へ出かけます。けれども、苦難の旅の果てに、アトランチスの末裔である地底人に襲撃され、誰も生還できませんでした。
 小栗虫太郎さんの人外魔境シリーズというのか、冒険ものは、高橋葉介さん、水木しげるさんの作品でも読んだことがあります。ただ、これも含めてすべてが、何となく、私にはピンと来なくて、こんな怪獣や地底人のいる世界なんてあるのだろうかと、首をひねってしまうのでした。

『邪神グローネ』海底火山の噴火によって、奇怪で恐ろしげな巨像が発見され、博物館に収められます。悪魔の研究を行なっている館員の須本は、その像が古代に封じられた邪神グローネそのものであると察知するや、封印の文字盤をはがし、警備員を殺して、グローネ復活をたくらみます。館長は異常事態に愕然とし、須本宅を訪問して、グローネのことを知るのですが、生け贄が欲しい須本によって気絶させられます。館長の息子、春彦は危ういところで父の館長を助け、彼らは力を合わせて、ぎりぎりのところで、グローネを封じこめました。
 シンプルなお話のようですが、グローネに全身の血を吸い取られ、ミイラ化した犠牲者達など、残酷なシーンもあります。グローネのデザインは、お見事。絡みついたヘビが髪の毛のようになっている頭部、四つか六つもある目と、おぞましいものです。学習雑誌に掲載されていたとは、ちょっと驚いてしまいます。後半の原稿が紛失したのでしょうか? 何だか、コピーのように荒く見えるのが惜しい!

『俺はだれ?』ある老人は大金持ちですが、健康に不安を持っており、しかも美しい妻にまで浮気されてしまいます。失望した彼は、偶然に知り合った、薄汚い怪しげな男の誘いに乗って、正体不明の青年と、体を交換します。大富豪の老人に生まれ変わった青年は、目の前で、妻と男が淫らに抱き合うのを見て、心臓発作を起こして死にます。一方、青年に成り代わった老人は、自分の全財産をまんまと入手しますが、張り込みをしていた刑事達から取り押さえられ、凶悪銀行強盗犯として逮捕されます。中味が老人で外見は青年の彼は呆然として、「い 一体 俺は だれなんだ」と、つぶやくのでした。
 登場人物全員、不幸になったということは(浮気妻も、財産を失っていますからね)、キーポイントとなった怪しげな男の正体は、悪魔だと思われます。ブラックユーモアに満ちたお話ですね。

『白髪鬼』、誠実な親友の川村、美しい妻ルリ子と、財産にも恵まれた大名の子孫、大牟田敏清(おおむた としきよ)は、ある観光名所から転落死し、先祖の亡骸の納められた殿様の墓に安置されます。ところが、大牟田は息を吹き返し、白骨の散らばる暗黒の墓所から必死で抜け出しますが、激しい恐怖を味わったあまり、髪は真っ白で頬のこけた、醜い容貌に変わり果ててしまいます。それでも、大牟田は妻に会おうとして家に忍びこんだ時、川村とルリ子が恋仲であること、あの転落事故は、邪魔な大牟田を抹殺しようとした、川村の計略によるものだと知って、驚愕します。大牟田は里見重之と名乗って変装し、墓所で発見した膨大な宝石を使って、川村、続いてルリ子に、恐ろしい復讐をくわだて、成功するのでした。
 以前申したとおり、『闇の顔』との共通項が多いですが、大牟田の、「川村、ルリ子、おまえたちをあっさり殺さないぞ」という、嫉妬と憎悪の念が、繰り返し、モノローグで述べられている分、かなりねちっこくダークな作品です。ただ、川村もルリ子も無残な結末を迎えますが(厳密に言えば、大牟田も)、きっちりとまとまっています。彼ら彼女よりも、墓所の描写の方が、ある意味、怖いかもしれません。三角関係好きの私は、『闇の顔』よりもこちらを選びます。

『魔界地帯』、ある青年が村へ取材に訪れますが、洞穴前で、鎧を着た武士と遭遇します。ところが、武士は苦しみだして、あっという間に鎧や刀を残して風化。青年は好奇心のまま、洞穴に入ったところ、そこは怪鳥、怪物、一つ目巨人などが、うろつき回る魔界でした。ある城にかくまわれますが、その美しい女領主は、「私達が魔力を失う昼間、ここにいて守ってほしい」と青年に言い、ご馳走や美酒をふるまいます。足止めされた青年は、必死で元の場所へ行き、村へ戻ったはずでしたが、そこは見たことのない建物の並ぶ、壮大な廃墟。青年は古新聞を拾い上げて見るや、「2041年第三次世界大戦に突入」の見出しが。ここで、青年は魔界の一日が、現世の十年であることを悟った瞬間、彼は本来の姿に変わり果て、呆然と立ち尽くすのでした。
 読み終えて、初めてわかりました。これは怪物の登場する伝奇物でありながらも、ストーリーのベースになっているのは、『浦島太郎』です。30ページの作品ながら、おどろおどろしい怪物から、親切そうだけれども本当は怖い美女達(魔女達というべきでしょうか)まで登場する、中味盛りだくさんのお話です。最近の漫画や小説も、○○を下敷きにしたお話、展開というのが少なくないのですが、即行でオチがわかってしまうから、大半がおもしろくありません(しかも、そういう作品は、絵や文章もスカスカ!)。アレンジのいい例でもあると思います。他に、私がこの作品を一番としたのは、登場人物の名前不明の青年が、なぜかバビル2世と瓜二つであることです。もちろん、超能力は使えませんし、「でたあっ」と顔色を変え、「ギャア」と叫んで飛び上がるなど、オーバーアクション気味なので、あくまで「外見だけ似ている」のですが。楽しめる作品です。それでは。

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