『元禄御畳奉行の日記』(原作:神坂次郎 作画:横山光輝)の感想
漫画『元禄御畳奉行の日記』(原作:神坂次郎 作画:横山光輝 秋田書店)の感想を申します。ネタバレがありますので、ご注意ください。
これは先月末頃に発行されたコンビニ本で、上下二冊にて完結しています。文庫本でもすでに発行されているようですが、持っておられる方はラッキーですし、未見の方は購入されることをお勧めします。二重の意味で、猛烈におもしろいです!
まず、これは神坂次郎さんの力量ゆえでしょうが、知られざる元禄時代の武士の姿が描かれています。しかも、生類憐みの令が布かれている頃なのに、舞台が尾張であるせいか、登場人物達は釣りをするし、鴨鍋も食べて、将軍、尾張藩主、藩主の母まで批判します。それでいながら、彼ら自身、武士とは名ばかりで、酒と女にうつつを抜かし、かなりみっともない始末。原作の原作ともいうべき元本は、『鸚鵡籠中記』というタイトルだそうですが、その内容の過激さゆえか、250年間、秘蔵されてきたそうです。今も、「私は武家の出よ」「先祖は、徳川家の血筋なの」と自慢する方がいらっしゃいますが(いや、ご先祖は確かにご立派ですが、そんなあなた自身はどうなの? 何か、世間に貢献し、感謝されているの? とたずねたい)、その人達に、この原作と漫画を読ませてやりましょうかね(笑)。
もう一つのツボは、作画が横山光輝さんであることです。絵柄はデフォルメされていないので、一見すれば、納得していただけるでしょう。が、『バビル2世』などのヒット漫画を読んできた方には、ショックかもしれません。冷静でクール、脇目もふらず戦う主人公達が多く、女性の出番が少ない、ハードボイルドでシリアスな作風のはずなのに、男女のからみだらけです! セックス、博打、飲酒、情痴事件など、原作つきとはいえ、これが横山光輝作品なのか! と驚いてしまいます。しかも、ところどころで笑えてしまうのですよ。またまた、横山光輝さんの並外れた力量に、私は感心してしまいました。
主人公は、朝日文左衛門重章で、18歳の彼が武家修行を始めて家督を継ぎ、御畳奉行に出世したものの、女中と浮気をし、先妻後妻の悋気に悩まされた挙句、酒に溺れ、酒毒による病(肝硬変のようです)によって、45歳で死亡するところまでが描かれています。この文左衛門、気が多くて飽きっぽく、武芸に精を出したり、漢詩や国文学を習ったりするものの、あまり長続きせず、日記だけは欠かさずにつけていたのでした(私と行動パターンが酷似しているので、ちょいと親近感があります)。
文左衛門は日記に、自分の日常だけでなく、心中や痴情のもつれによる殺傷事件のルポ、憎い相手を斬ることも、切腹もできない武士達(そういう文左衛門も、据物斬り【斬首された罪人の死体を、胴体斬りにすること】の後、気分が悪くなって吐きます)まで、克明に描いています。そして、尾張藩主の徳川吉通の愚かさ加減にも驚かされますが、その生母である、本寿院の、市井の男、四人ほどを一度に相手にする御乱行ぶりに、私は仰天しましたね。まさか、日本にも古代ローマ皇紀、メッサリーナみたいな女性がいたとは思いませんでした。
このように、酒食にふけり、日記を書き続けて、好き放題に生きた文左衛門も、ついに最期の時を迎えます。下戸である私としては、妻の悋気といった家庭事情から逃げるために酒に溺れるとは、実にもったいないと思うのですが、ある意味、理想的な人生かもしれません。この愛すべきおバカな武士のおかげで、すばらしい日記と漫画が生まれたことに感謝したいです。来月頃にでも、機会がありましたら、神坂次郎さんの原作も読んでみるつもりです。それでは。
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