『地球ナンバーV-7(ブイ-セブン)』(横山光輝)の感想
『地球ナンバーV-7(ブイ-セブン)』(横山光輝・講談社漫画文庫)の感想を申します。ネタバレは少なめに心がけていますが、ご注意ください。多少、『バビル2世』の感想も含まれておりますので、その点もご了承ください。
『地球ナンバーV-7(ブイ-セブン)』は、小学館の少年サンデーに、昭和43年(1968年)38号から昭和44年(1969年)11号まで掲載され、朝日ソノラマ版や大都社版のコミックスが発行されていたそうです。こちらは文庫本とはいえ、巻末に連載時の(すべてではありませんが)扉絵集やコミックスの表紙(モノクロなのが少し残念)が掲載されており、なかなかありがたい作りになっています。2002年12月12日第一刷発行となっていますが、今もあるといいですなあ。
何でも、この『地球ナンバーV-7』は、『バビル2世』の原点となったSF漫画だそうです。原点なら、設定などに少々雑なところもあるかも、と予想して、あまり期待しないで読み始めたのですが、ごめんなさい! これが非常におもしろかったのです。確かに、『バビル2世』と重なる部分はありましたけれども、バトルや展開は別個のお話でした。
主人公は、コンピューター登録ナンバーV-7こと、並外れた超能力者のディック・牧。時代は、火星に入植している、近未来。人々が火星に住むようになったせいか、超能力者が増え、その中には、火星の「カナーリの牢獄」と呼ばれる、凶悪犯ばかりを閉じこめる刑務所に収監される者まで現れます。一般の人々と超能力者との軋轢は深まるばかりで、ディックは当初、火星の超能力者を含めた反抗的なグループとの和解を、地球政府から頼まれたのですが、すでに双方から化け物扱い。かくして、ディックは、火星にいた友人のブレランドともども超能力者同士の戦いに巻きこまれていきます。心ならずも、ディックは超能力者達を倒し、そして、迫害はまぬがれず、地球と火星に自分達の居場所がないことを悟ります。かくして、ディックは長距離ロケットを編成して、超能力者達と乗りこみ、新天地を求めて旅立っていった、というお話です。
ストーリー自体は、アクションが多いながらも、全員死亡とはいきませんでしたが、異端者が受け入れられない哀愁、失望がただよっているようです。それでも、ディックはブレランドや姉とともに旅立ったし、「我々が新しい天地をみつけたら その連中(他の超能力者達)を あたたかくむかえやろう」と、ラスト近くで言っているのですから、希望はある、のかな?
いただけない点は、開始当初と連載途中で、ディックの髪型が変わるなどのブレがあることでしょうか。それから、彼の着ている服が、バイクスーツかパイロットスーツか、よくわかりませぬ。左右の大腿の脇、ポケット部分が妙に張り出しているのですよね。
おもしろいところは、やはり、『バビル2世』と異なる物語だということです。特に中盤、カナーリの牢獄の元囚人で、凶悪超能力犯罪者五人、マウスキッド、ジャンセン、ニクロムスキー、ジョルダン、ギャロップとの戦いが非常におもしろい。『バビル2世』では、主人公とその宿敵の超能力が強大すぎるせいか、敵側は超能力よりも体術や体力勝負という感じでしたが、『地球ナンバーV-7』は、純然とした、超能力者同士のガチ勝負です。しかも、テレキネシスやテレパシーといったオーソドックスな超能力よりも、空中に巻き上げるマウスキッド、髪を自在に伸ばして拘束したり、毒針のように飛ばして攻撃するジョルダン(彼が一番インパクトがありました)、爆破のようなマグネットパワーを浴びせるニクロムスキーと、まるでミュータントみたいです。
さらに、ディックはブレランドと、しばしば共闘スタイルを取っており、私は『バビル2世』『闇の土鬼』ともども、孤独に戦うヒーローばかり読んできましたから、新鮮でした。そんなブレランド、ちっともイケメンではありませぬ。前髪がちょっぴりあるようなスキンヘッド? で、ぽっちゃりを通り越して、小太り。一見して、ギャグ担当みたい。なのに、彼もれっきとした超能力者で、「死んでもらおう」と言って、マウスキッドを容赦なく倒し、自身もピンチになりますが、ディックも助けてあげています。ブレランドが活躍したからこそ、『地球ナンバーV-7』は殺伐としているだけのSF漫画にならずにすんでいるのではないかと思えるほどです。また、横山光輝さんの懐の深さを感じさせられました。それでは。
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