『ハカイジュウ』3巻(本田真吾)の感想
『ハカイジュウ』3巻(本田真吾・秋田書店)の感想を申します。いくらかのネタバレを含みますので、ご注意ください。
あらすじは、突然、食人生物が現われたため、皆がトイレにこもってしまった、との武重の話を信じて、陽は白崎に呼びかけたところ、彼女は「逃げて!!」と、叫びます。たちまち、武重が殺意満々で、襲ってきます。武重は実は、懲戒免職処分の元教師で、気丈な白崎を偏愛し、彼女を思うがままに「調教」するため、邪魔な存在である陽を排除しようとしているのでした。陽は白崎、田所の助けも借りるものの、武重は猛烈に強い。やむなく、全員で戦おうとした瞬間、触手型食人生物(作中では、「ムカデ」と言っていましたので、今後、そう呼びます)が侵入! 当然、争いをやめて、幼生一匹を倒しますが、閉鎖していたはずの映画館に、ムカデが次々とやって来ます。たまりかねて、彼らはトイレから逃れられない、映画館オーナーの老夫婦を除いて、全員が地上に脱出しますが、そこは巨大ムカデが何匹も。絶体絶命のその時、オタク青年の村内が、車を運転して登場し、皆を乗せます(ひねくれた勤め人、真島は、乗車寸前で死亡)。
ところが、頼りになりそうな村内はヒーロー気取りで、彼こそが無断で映画館を開けた張本人なのですが、反省の色はまったくなく、高飛車な態度。咄嗟に、陽は機転を利かせて、巨大な穴のそばへ車を向かわせたところ、巨大ムカデは追跡をやめて去ってしまいます。わずかな休息のひととき、陽は桜から、恋する未来が立川駅の溝の外に出て無事であろうことを聞いて安堵し、武重と村内の対立は深まります。そんな折りしも、彼らの頭上に、二機のヘリコプターが。助かるのでしょうか?
3巻の表紙は、怖い! いくつもの目玉を持つ、ムカデの顔? のドアップです。それなのに、カバー折り返しで、本田真吾さんは、「ムカデ型ハカイジュウがかわいいヤツにしか見えなくなってきました」ですと! いや、充分、怖いです! エグいですって!
いつもの食人生物に、新種は現われず、彼らもダメージを受ければ死ぬ、程度のことしかわからず、ややインパクトに欠けたかもしれませぬ。が、今回、怖いのは人間! 武重が陽を追い詰め、あらすじでは省略しましたが、ハンマーをふるって襲ってくる場面は、本当に恐ろしい! うっかり寝る前に読んでしまったら、夢でうなされそうです。加えて、悪意はないものの、まったく人の話を聞かず、自分が怪獣映画の主人公になったかのように錯覚し、度重なるピンチにも逆に興奮し、皆を危険に追いやっても反省しない、村内! 武重や村内は、現実にいてほしくありませんが、絶対にいないと言い切れないところが、また怖さ倍増です。
それから、今回の犠牲者は五人。ムカデに食われたカップルと、映画館が崩壊して下敷きになったであろう、オーナーの老夫婦。それから、武重の怒りを買って蹴り落とされ、ムカデに食われた、真島。ふと、気づいたのですが(遅っ!)、『ハカイジュウ』に描かれる、人々の死体のむごさは、リアルであるだけでなく、「死にたくない」「どうして?」「怖い」「苦しい」という、まさに断末魔の表情=感情が描かれているからではないか、と思います。うーん、東京都の青少年条例に引っかからないといいですけど。
このように、コワおもしろくありましたが、ほのぼのする場面、目の保養的場面もありました。白崎が魅力的! 殺されかけている陽を助けようと、髪を乱して、モップをふり下ろすところなどは、『土竜の唄』(高橋のぼる)に登場する、女刑事の桃川千晶のように、りりしい! 武重に平手打ちされた直後、唇から血をにじませながらも、強気ににらみ返す表情なんて、かっこよすぎ! それでいながら、陽の無事を知って、かすかに笑うと、ウソみたいにかわいいです。そんな白崎にときめいたくせに、陽はやはり、未来のことで安心し、リストバンドを握り締めております。白崎は、嫉妬めいた複雑な表情から、仕方なさそうに陽を見つめていますが・・・・気づけよ、陽。武重や村内もいやですが、恋するあまりに鈍感になっている陽も、身近にいて欲しくありませんな。ストーリーの展開上、白崎と陽に、恋愛フラグは立つ・・・・のでしょうか? 食人生物、溝や穴といった、謎の部分も含めて、見逃せない作品になりそうです。それでは。
参照
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