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2011年7月23日 (土)

『鋼の錬金術師』27巻(完)(荒川弘)の感想

 漫画『鋼の錬金術師』27巻(完)(荒川弘 スクエア・エニックス)の感想を申し上げます。完結ということで、ネタバレに加えて、やや批判的な表現をしておりますので、ご注意ください。特に、ロイ・マスタングのファンの方は、避けていただいた方がいいかもしれませぬ。
 あらすじ・・・・と言っても、予定調和と呼ぶべきでしょうか。はい、きれいに終わりましたよ。気分も悪くありません。しかし、ワタシ的には、それだけ。ダーク・ファンタジーらしさを感じられませんでした。ストーリー、登場人物の設定にも納得できないことが、いくつかあります。

 まず、最大の不満は、エドの左足、アルの全身を失わせる結果となった事件で、「なぜ、死人を生き返らせるのが悪いことなのか」、この重要なテーマの答えが出ていない。このストーリーをなぞっていくと、「人体練成のやり方に失敗した。ちぇっ」ということになってしまいます。
 イシュヴァール殲滅戦、軍人達の会話だけで流されてスルーかと思っていましたが、少年漫画の表現ギリギリ、しかし、きちっと、戦争の怖さが描かれていてよかったです。だから、いつか、「死人を生き返らせるのは罪悪」という答えが出てくるだろう、伏線を解いてくれるだろうと、最終巻まで期待していたのに。はぁ(ため息)。
 それで、マスタングは、イシュヴァール殲滅戦で虐殺しまくったのに、27巻では賢者の石の力を借りて、視力まで復活ですか、そうですか・・・・納得がいきません! 非戦闘員を殺しまくる軍人なんて、最悪です。イシュヴァール殲滅戦に参加した軍人サイドで、許されるのは、自ら戦線を離脱したであろう、アレックス・ルイ・アームストロングのみで、他はラスボス、じゃない、ホムンクルスのトップとの戦いで死んでしまってもよいのに。しかも、マスタング、賢者の石の作り方を知っているのなら、拒絶しそうなものなのに、あっさり受け入れるとは思いませんでしたよ。
 もし、私がマスタングを好きならば、この作品の評価も変わっていたでしょうね。ところが、私は彼の有能さを実感できませぬ。女性と幅広くつき合う男性は少なくないでしょうが、仕事の場でもいちゃつくタイプで、仕事の出来る人なんて、想像もできないです。
 さらに、マスタングがイケメンであれば(くどいので、以下省略)。けれども、私は彼が生っ白い、下膨れの若年寄にしか見えません。加えて、エルリック兄弟も、目はぱっちりしてかわいいのですが、美少年とは感じられませんでした。ウィンリィ、ホークアイなど、女性キャラクターになると、いっそうその傾向は顕著で・・・・作者様、すっきりした細面、涼しげ、あるいは猛々しい眼差しのタイプを描いてくださいよ。アレックス・ルイ・アームストロングやイズミのダンナのような、筋肉隆々のオヤジを描くのは、うまいのにねえ(ため息)。
 27巻のエドの行為、私はやはり承知できかねます。本人は、たいそうな自己犠牲を行なったつもりでしょうが、錬金術は彼が幼い頃から一生懸命、習得してきた技術でしょう? エゴイスティックにためらい、真実の扉の前の神に対して、詰問してもよかろうに。エド、マスタングが嫌いでしたよね? 国家錬金術師になったのも、アルを元の姿に戻したいからでしたよね? そういうしたたかな彼が、いつの間に、軍人の言いなりになったり、協力し合うようになった? その上、27巻では、錬金術の力をなくしても、自分には仲間がいる、なんて、少年ジャンプのテーマじゃないあるまいし、ダーク・ファンタジー面目、丸つぶれですがな。
 真実の扉の前の神、この正体、目的がわかる方、いらっしゃいますか? グラトニーのようなシルエットを見せることもありましたが、ホムンクルスのトップを放ったり、真実の扉の内に取りこんだりと、一体、何者? 考えようによっては、クセルクセスの悲劇を生んだのは、この神のせいなのでは? エドやホムンクルスのトップに、真実を悟らせたいために、クセルクセスやイシュヴァールの犠牲が必要? だとしたら、ひどいヤツですな。
 スカーが生き残ったのも・・・・(ため息)。イシュヴァール殲滅戦に関わっていなかったであろう国家錬金術師をも虐殺した、極悪人なのに、罰を受けないのね。作者様、もしかして、スカー、マスタングなどのキャラクターをひいきしていませんか?
 後半になるほど、登場人物が多すぎ、格闘シーンがごちゃごちゃしてわかりにくい、というのは前回、申し上げましたね。ホムンクルス達も、初期は不気味+人間の業の部分を巨大化したみたいな雰囲気だったのに、後半は、ただの強敵、主人公達のかませ犬になってしまい、残念です。ホムンクルス達は、ウロボロス、エドは十字架にからまる蛇の、フラメルの紋章を使用していましたね? これは錬金術師の光と影を示すような、今後の謎解きに関わるのではないかと期待していたのに・・・・結局、ただの飾りですか。
 最後に、錬金術についての疑問が残りました。エドはそれを捨てましたが、アルにはその能力が残っている? マスタングも別に支障なし? 一度、スカーとメイだけ錬金術が使えて、他の者は使えない事態があったけど、どうして? 「この国の錬金術は おかしい」と、リンだったか、誰かが言っていたけど、何がおかしい? ホムンクルスのトップを倒せて、そのひずみは直せたの?
 このように、読後感は悪くありませんが、細かい疑問が解決されずじまいでした。せめて、エルリック兄弟やマスタングが大好きだったら(くどいので自主省略)。期待はずれだったのは腹立たしいけれども、途中までは、非常にわくわくしていた作品であったのは事実です。なので、『鋼の錬金術師』はブラックリスト入りはせず、リサイクル本屋さん行き処分にいたします。長い間楽しませていただき、ありがとうございました、荒川弘さん!
 やはり、ワタシ的に、ダーク・ファンタジーの最高峰は、『ベルセルク』ですね。『進撃の巨人』なども、ぜひ私の度肝を抜いてくれるよう、期待いたします。それでは。

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