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2011年7月22日 (金)

『ちぇんごく』上(絵:宮下英樹 文:本郷和人)の感想

『ちぇんごく』上(絵:宮下英樹 文:本郷和人 講談社)の感想を申します。ネタバレが含まれておりますので、ご注意ください。

 事前に、私はこの記事のカテゴリーを決める際、漫画か書籍かと、大いに迷い、両方に決定しました。それというのも、『ちぇんごく』は、月刊ヤングマガジンに連載されていますけれども、宮下英樹さんの漫画は導入部で(リアル・シリアス絵師の方による、ギャグモードですので、これはこれでおもしろい)、メインは、主人公の主人公の仙石権兵衛秀久とその師匠(?)、竹中半兵衛重治、そして特別なお客様による討論(「ちぇんごく」こと仙石の疑問や悩みに、半兵衛が答え、客人が解説するというスタイル)、本郷和人さんのコラム(これが1回ごとの締めくくり)なのですから。気楽に読めるギャグ漫画というよりは、ギャグ満載の、楽しくわかりやすい、戦国時代の解説書ではないかと思います。

 けれども、取り上げている素材は、基礎にして難解。たとえば、第1回は「武士たちはなぜ戦ったんですか?」、第5回「城は何のためにあったんですか?」。私は反射的に、「そんなの、当たり前でしょう」と即答した後、はっきり答えられません。基本は、東京大学資料編纂所准教授の本郷和人さんの研究テーマ、「戦国時代とは何か」ということであろうと、思います。
 東京大学・・・・と知って、思わず引いてしまった方もいらっしゃるでしょう。ところが、どうして、『ちぇんごく』はおもしろい! 声を出して笑ってしまう箇所もあるほど、おかしい! 解説やコラム担当の本郷和人さん自身が、第3回の討論で、「赤門村かずべえ」として出演しており、「小太り・草食系・引きこもり。二次元をこよなく愛し、生きたおなごの前に出るとヘタレて口がきけなくなる。」と、紹介されています。いや、そこまで言わなくても・・・・。討論ゲストも豪華です。第1回からして、今川義元、朝倉義景だし、羽柴秀吉、徳川家康、堀秀政、太原雪斎と、歴史ファン、マニア垂涎のメンバーが真剣ゆえユニークに、激論しているわけですので、おもしろくなって当然なのかもしれませぬ。
 残念なのは、おもしろキャラクター「赤門村かずべえ」がP50で「赤門村かすべえ」と、誤った表記(誤植?)されていること。討論部分は読みやすいのですが、ページ下のさらに詳細な解説部分(お客様の紹介=生涯と、語句や表現の説明)、これが非常にスペースも文字も小さく、読みにくい上、討論部分の数ページ先で述べられています。第6回、お客様の山県三郎兵衛は武田信玄配下の武将ですが、「1575年長篠の戦で戦死。」と解説されているものの、「長篠の戦って、何だっけ?」と、私はしばし首をひねり、ウィキペディアを見るしかありませんでした。わかりやすい、けど、なおも専門的な箇所もあるようです。が、あえて読者に疑問や興味を抱かせ、調べるようにさせるとしたら、この描き方は大成功でしょう。
 まあ、この『ちぇんごく』を読んで感心したのは、戦国時代が日本史の中でも特異であると同時に、とても現代に通じていると思われた点でした。私の読んできた教科書や日本史関係書は、織田信長→豊臣秀吉→徳川家康という権力の流がメインでしたけれども、武田信玄の外交戦略は、平成の今の歴代首相など足元にも及ばぬ、非情さと巧みさを併せ持っていたのです(第6回)。朝倉義景も今川義元も、織田信長に負けた愚か者どころか、実に有能でした。それでいて、商業都市、宗教都市があったり、農民がストライキを起こしたりと、戦国時代は、どのような治世、都市や人々のあり方、文化がベストなのかと、試行錯誤して、激しく動いていたように思います。先入観を捨て、大名から無名の武将まで洗い直してみようではないか、というのが『ちぇんごく』の魅力なのでしょう。日本史オンチで勉強苦手、暗記嫌いな怠け者(=私)は、こういう本を待っていました。次回も楽しみです。それでは。

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