« 『怪眼』(伊藤三巳華)の感想 | トップページ | 『黒い家相』(高野美香)の感想 »

2011年8月23日 (火)

『Lyrica(リリカ)』(宮西計三)の感想

 エロ劇画作品集『Lyrica(リリカ)』(宮西計三・ペヨトル工房)の感想を申します。いくらかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 エロ劇画と見て、顔をしかめた方、「今日は読まなくてもいいや」と思われた方、もったいない! 確かに、テーマはセックスだし、エロ劇画としかジャンル分けできませんが、笑いの要素は、見事なまでに皆無です。異性または同性同士が、情熱のおもむくままに、互いの体を愛で、身も心もつながり合う、非常にシリアスかつ真摯な物語ばかりです。写真かと、見まがうほどの綿密な点描、勃起した股間を覆う下帯のしわの細かさと、エロ劇画というよりは、大人向けの絵物語と見なした方がいいと、私は思います。

 収録作品数は、短編18話。1979年から1984年までに発行された、単行本からの再録です。しかしながら、この作品集自体、1994年9月5日発行ですから、今では品切れになっているかもしれません。宮西計三という作家、その作品の特徴を知る上では、購入して損はないと思います。
 繰り返しになりますが、絵が性器や陰毛まで細かく描写しているため(不思議と、いやらしさは感じません。なまめかしいのは、人物の表情、しぐさ、言葉です)、生々しすぎるとも感じられるのは、欠点かもしれません。ダイレクトに表現されていませんが、宮西計三さんは同性間も嫌悪がないのか、男同士の関係も描いておられます。それでも、私はこの作品集を越える、淫らすぎ、なおかつ、美しすぎるエロ劇画を見たことがありません。そして、わずかなページ数に凝縮される心理のひだ、危うい情念は、これ以上、継ぎ足しも削りもできないように感じられます。
 できれば、宮西計三ファンの方から、「私はこう思う!」といった、ご意見やご感想をいただきたいのですが、よろしくお願いいたします。
 さらに、私が心惹かれているのは、三角関係やそれに似たテーマを多く扱っているからかもしれません(苦笑)。たとえば、『男女男(ふたな)りの夜』『メロンの岩』『十七歳の妾』『肉体関係』『鬼百合秘(ひめ)』『五日物語』など。中でも、私のお気に入りは、『貧しきフリュート』と『ぼくのお尻にきみの勇気』。後のタイトル名に、吹き出した方がおられるでしょう。しかし、これは童貞のピアノ弾きの少年を主人公に、激しい愛欲関係にある男女と、アメリカ人兵士が織り成す、恐ろしくも美しいストーリーで、これを上回るタイトルはないように感じられるのです。
 最後に、この作品集は、使われている言葉がとてもきれい。たとえば、『貧しきフリュート』の始まりで、貧しい笛吹きの少年のモノローグでは。

(父の墓に向かって)眠りの果てから 母さんたすけに もどっておいで・・・・・
精霊といっしょにやさしく包みに来てあげて

(続くナレーション)少年は笛を吹くのがお仕事でした・・・・
ですが まだまだお父さんのように上手くは吹けません
だから 満足なお金も稼げず とっても貧しいのです

 エロ劇画というだけで、埋もれてしまわず、もっと宮西計三作品が評価されることを心から願っております。それでは。

ご協力お願いします。
人気ブログランキングへ

| |

« 『怪眼』(伊藤三巳華)の感想 | トップページ | 『黒い家相』(高野美香)の感想 »

アニメ・コミック」カテゴリの記事

コメント

初めまして。
漫画とは異なる関心だったかもしれませんが、最近日本画を始め、日本画のデッサンを線で取るのですが、裸婦のお手本になるような線描の日本人画家の絵がなかなか見つからず、昔、たしか非常に上手い線描のヌードを描く漫画家がいたっけなあ、と思い出して、この本にたどり着きました(古本屋で購入)。
この人はハンスベルメールの影響を受けたとききましたが、それとも違う。藤田嗣二や加山又造などの裸婦線描とも違い、エゴンシーレに匹敵するような張り詰めた神経の鋭さをもっています。しかも線が美しい。ラストの「鬼百合秘」などは「白描画」というジャンルとして見ても凄い画力だと思います。漫画とか絵画とか関係なく、これだけの画力と感性を持つ作家が評価されずに埋もれてしまうのは、もったいない限りですね。日本の批評家どもは何をしているのか。

投稿: Q | 2014年4月 5日 (土) 18時31分

Q様、コメント、ありがとうございます。
そして、返信が非常に遅れまして、申しわけありません。
不慣れなWindows8の操作に加えて、公私の多忙、グタグタの
体調不良が続いておりました。

コメントの画家というか、アーティスト諸氏の名前と作風を、
私はあまり知らないのですが、少しずつ調べてみたく思い
ます。
とにかく、宮西計三氏の劇画の魅力をご存知の方がおられて、
うれしい限りです。
また、宮西氏やその他の有名無名のアーティストの作品に
ついて、つたないなりに、感想を述べていくつもりでおり
ますので、またご訪問なさってください。
心より、お待ちしております。

投稿: 紅林真緒 | 2014年4月19日 (土) 23時42分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『Lyrica(リリカ)』(宮西計三)の感想:

« 『怪眼』(伊藤三巳華)の感想 | トップページ | 『黒い家相』(高野美香)の感想 »