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2011年10月 9日 (日)

『闇の土鬼』(横山光輝)の<真面目な>感想

 漫画『闇の土鬼』(横山光輝・講談社)の<真面目な>感想を申します。いくらかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 ちなみに、私は最初、講談社漫画文庫全3巻で持っておりましたが、ページ汚れがあったため、オークションでKCスペシャル全3巻にて入手いたしました。大きさはB6で、350ページ前後、第一集の初版は1984年11月6日と、20年以上前! なのですが、通常単行本や文庫本より迫力があるし、外側が日焼けしているのみだから、悪くはありませぬ。もっとも入手しやすいのは、講談社漫画文庫でしょうね。それは、私の手元にないのですが、KCスペシャル版と構成はほぼ同じようです。
 ちなみに、これは、KCスペシャル第二集の表紙。彼は推定15歳~17歳でしょうけれども、妙に老けて見えますが、ワタシ的には、そこがいい!
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 第二集より。
 簡単なあらすじを申しますと、主人公は、ある農家で土に埋めて間引きされかけましたが、奇跡的に生き延びた少年、土鬼(どき)。くわが当たって、右目がつぶれており、たまに左腕が動かなくなる持病を持ちながらも、育ての親の大谷主水に、特殊な闇の武術を伝授され、めきめきと上達していきます。その大谷主水は表向き、白髪白髭の道場主でしたが、実は壮年で、幕府直属の暗殺集団、血風党の脱走者でした。ある日、土鬼が人前で闇の武術を使ったために、血風党の刺客に正体がばれてしまい、主水は裏切り者として殺されてしまいます。土鬼は彼から受け継いだ闇の武芸を完成させて、血風党を倒すことを決意し、首領の無明斎(むみょうさい)に少しずつ迫っていく、というもの。勧善懲悪の、シンプルストーリーともいえましょうが、なかなか複雑な様相を帯びていまして、ただの少年漫画と、ひとくくりするには、もったいない、重厚なお話です。本題に入る前に、例によって、いただけない点を少々。

1.唐突すぎる、霧兵衛の死
 第3集で、老獪で危機をくぐりぬけ、土鬼の数少ない協力者だった伊賀忍者(作中では、幕府御用達なので、「伊賀者」)の霧兵衛が、血風党のわなにかかり、土鬼の居場所を自白させられた上で、あっさりと斬り殺されます。幻術も使えて、あんなに強かったはずなのに、無明斉の催眠術にかかるとは、納得がいきません。たぶん、土鬼が雪山で最後の戦いをするため、一人きりにするための演出でしょうが、結構、彼はおもしろいことをやっていたし、土鬼も彼に心を許しているようでした。うーん、もったいない。

2.土鬼、主人公とはいえ、強すぎ!
 そりゃあ、第1集で、無明斎から死角の右側から矢を射掛けられましたが、「土鬼って、そう言えば右目がふさがっていたっけ」「あ、そう言えば、左手が動かないのか」と、思い出さなくてはならないほど、土鬼は異様に強すぎます。第3集では、血風党四天王の残り三人との戦いが、デキレースっぽくなって、緊迫感に乏しい(ビジュアル的に、土鬼がかっこいいから楽しめますが)。第1集から第2集冒頭まで、宮本武蔵が登場していますから、作者様は自分なりに創り上げた、フィクションの最強剣豪を描きたかったのかなと、私は予想していますが、片目であることをカバーする、土鬼なりの工夫なども表現していただきたかったです。

3.あちらこちらの台詞に、矛盾がチラホラと
 たとえば、第1集、医者が右目のことについてたずねた時の、土鬼の答え。
「わからぬ 物心ついたときには すでにつぶれておった」
 おいおい、土鬼さん、大谷主水から右目のことは説明されていたでしょうが。度忘れしたの? まあ、間引きされたことなんて、他人に言いたくないから、土鬼はとっさに忘れたふりをしたのかもしれませんが。
 第2集でも、土鬼は霧兵衛相手に、「父(大谷主水)は 闇の武芸にひかれていたと判断すべきだろう/(中略)芸術品をつくりあげるつもりで おれにおしえたにちがいないんだ」と、推測したように話していますが、それ、全部、主水が臨終で打ち明けていたことなのだけど? 何をもったいぶって、自分一人で考えたように言っているのでしょう。土鬼の心情をくわしく語るためには、仕方ないのでしょうか。
 そして、最大の疑問は第1集、臨終の際の主水の台詞。コマの大きさに比べて、言葉が少なく見える箇所があり、かなり改変されているようです。主水の言葉のみを受け取りますと。
 血風党がただの暗殺集団になったので、主水は脱党した。→しかし、血風党の闇の武芸は魅力的だった。→土鬼には天性の才能があったので、血風党の武芸を完成させられるよう、厳しく教えた。→そして、主水は、「自分のできなかった夢を おまえに期待してたようだ」と結びます。字面だけを見ると、自分の夢というか、よりによって暗殺術なぞを、いたいけな子どもに教えこむなんて、何てひどい、ということになりますね。しかし、土鬼は事実上、主水の敵討ちのような戦いをいどむなんて、あんな薄情な父なのに、どうして? と、首をひねってしまいます。ただ、さすがにクールな土鬼も、自分が父の子でないこと、そして主水の死には動転していましたから、この二人には作中では語り尽くせない、きずながあったのだろうなと、推測しています。やはり、横山光輝作品は、情緒、心情部分をあっさり流す傾向があるのでしょうかね。

 不満だったのは、これくらい。あとは、なかなか! できれば読んでいただきたいほど! 『闇の土鬼』はおもしろい!
 まず、この漫画の不思議な魅力の一つとして、「土鬼は強いけれども、最強ではない」という点にあります。ずっこけてしまいそうな説明ですが、実は物語のバックグラウンドで、駿河大納言忠長と、徳川家光派の松平伊豆守という、深刻な権力闘争が行なわれていたのです。そして、無明斎は忠長に、伊豆守は霧兵衛などの伊賀者と柳生十兵衛、土鬼を組み入れていたのでした。第3集から、無明斎が追い詰められるのは、土鬼が肉迫してきたからではなく、忠長が失脚したためなのです。しかも、伊豆守は忠長をおとしいれるため、雇い入れていた伊賀者を、霧兵衛以外の全員を惨殺しました。土鬼は勝ち続けますが、それは伊豆守が彼を有用とみなしたからであって、伊豆守の考え一つで、土鬼、いや柳生十兵衛までも、殺されていたかもしれない。そんな権力の恐ろしさ、強さ、対する個人のはかなさが、ひしひしと伝わってきます。
 ところが、そんな虚無的なバックグラウンドと裏腹に、土鬼VS血風党との戦いは、意外性に飛んでいて、おもしろい! 横山光輝さんお得意の、わかりやすい、生き生きした、動きのある絵が、これでもかと続きます。倒されたとはいえ、血風党もバカではありません。『闇の土鬼』の戦いは、刀の斬撃場面もありますが、どちらかというと、闇の武術という、隠し武器が主体です。土鬼の主力武器は、七節棍(ななせつこん)、霞(かすみ)のつぶて、隠し針。七節棍は七つの節からなっていて、「すべてをはずせば数倍にのび 敵の顔面をたたきわることができる/あるときは 相手の首にからみつき しめ殺す/そして たちまち 棍棒にはやがわりすることもできる」(第1集)という、鞭と棍棒の両方を兼ね備えたようなもので、土鬼はこれで、敵の顔面や脳天をねらいます(ちと残酷。横山光輝さんの絵でよかった)。霞のつぶては、小石を投げつけて殺傷させる技。隠し針は、棒手裏剣をさらに細くしたようなもので、相手の不意をねらい、のどなどを投げかけてきます。秘密技、一の太刀を使う(第1集)こともありました。
 対する血風党も様々な武器を持っていますが、きりがないので、ちと省略、でも、ワタシ的に一番かっこいいなと思ったのは、「森々の剣 密々の戟(ほこ) 柳花水を斬る 草葉征矢(そや)をなす 濠(ほり)をめぐる垣は これ壮士(おのこ)」と、大勢が歌いながら、敵を取り囲み、いっせいに刀を打ち下ろして、一網打尽にする殺法。何か、いかにもありそうです。
 最大の魅力としては、くどいようですが、土鬼がとにかく、かっこいい! 戦う姿もそうですが、桟を足の指にはさんで、天井に仁王立ちとか、度肝を抜かれてしまいます。
 そして、いただけない点と矛盾するようですが、この『闇の土鬼』では、土鬼のふだんの姿、心情が、他の横山光輝作品にはあまりなかったであろうほど、よく描かれています。眠っていて悪夢にうなされたり(第2集)、楽しそうに飼い鷹の稲妻の世話をしていたり(第1集)。取り分け、興味深かったのが、戦いで深手を負った土鬼が、(このまま死ぬとすれば おれの一生は苦痛だけだった)と、今まで読んだ横山作品の中で、もっとも苦しいモノローグをしていたこと(第2集)。 逆に、焼いた熊の肉を次々に平らげる場面(第3集)もまた、珍しいのでは? 今、読んでいる、横山光輝作『水滸伝』も、宴会、酒盛りはありますが、食べることにポイントは置かれていませんでしたから。しかも、クールなはずの土鬼なのに、満足げで、おいしそうでした。お相伴にあずかった、柳生十兵衛とその部下がうらやましかったです。
 このように、虚無感、スピーディーなストーリー展開、ありそうでなかった、リアルアクション、土鬼を初め、大勢の人々の思惑と、複雑&複合的な構成ですが、極上のエンターテイメントだと、私は確信しています。これはもう、『復刊ドットコム』へリクエスト! でしょう。それでは、よかったら、次の〈腐女子的〉感想も読んでみてください。

参照
『闇の土鬼』(横山光輝)の<腐女子的>感想

 
 

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コメント

完全復刻版があって、大谷主水の臨終の台詞は完全版では連載当時の台詞に戻されています。
土鬼になぜ武芸を教え込んだのは、動機は不明になっていて、
「ここを去りどこかで静かに暮らせ」
「それとも真の親を探して親孝行するのも良い」
という台詞になっています。

武芸を教え込んでおきながら、仇討ちを禁じて、どこかで静かに暮らせと諭して「仇討ちはいたしません」という土鬼の約束を聞いて「それを聞いて安心した」と死んでいく大谷主水の胸中を去来するものを推察すると、味わい深いものがあります。

投稿: CANDY | 2016年8月22日 (月) 11時59分

コメント、ありがとうございました。
しかし、返答が遅すぎて、無視されてしまったと、お思いでしょう。すみませんでした。

たぶん、身内の入院騒ぎと重なっていて、コメント通知メールすら見逃してしまっていたのでしょう。

貴重な情報に関しても、お礼を申し上げます。
完全版は、やはり読むべきなのですね。

投稿: 紅林真緒 | 2016年11月20日 (日) 06時22分

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