『ドリフターズ』1、2巻(平野耕太)の感想
漫画『ドリフターズ』1、2巻(平野耕太・少年画報社)の前フリ感想を申します。ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。
1巻のあらすじとしては、関ヶ原の戦いの終盤で、西軍の武将、島津豊久(たぶん主人公)は、重傷を負ってさまよっていたところ、いつ、どのようにしてなのか、奇妙な場所に迷いこみます。ひどく長い廊下と、その両脇にずらりと並んだ、それぞれに作りが異なる無数のドア。そして、廊下の中央には眼鏡をかけて、現代の洋服姿の男が、煙草を吸いながら、事務作業中(もっとも、現代の私達視点なので、豊久には、異星人のように見えたでしょう)。 「次」という、男の事務的な声とともに、あるドアが開かれ、豊久は吸いこまれて? しまいます。
異世界で負傷した豊久を介抱し、安全な廃城へ運んだのは、耳の長いエルフという種族。そこには、何ととっくに死んだはずの織田信長、美女にみまがう容貌の那須与一がいて、信長が言うには、彼は豊久と同様にここへやって来て、しかも、「この世界に俺がすっ飛ばされて来たのも まだ半年と経っておらぬわ!!」。仲間になった三人ですが、豊久は、恩義あるエルフ達が国軍から虐殺されているのを知り、味方することに。
一方、豊久ら漂流物といわれるドリフターズ(またはドリフ)を、この世界に導いたのは、紫という男ですが、黒ゴス風の美少女、EASY(イーズィー)と敵対しており? 彼女は、「あなたたちの漂流物(ドリフターズ)なんかで 私の廃棄物たちが倒せるわけがない」と、断言。
そして、豊久らと別の場所にいる漂流物達は、スキピオ、ハンニバル、ワイルドバンチ団が、謎の支配者、黒王ひきいる廃棄物、土方、ジャンヌ ダルク、アナスタシア ニコラエヴァ ロマノヴァと激突、交戦状態に。廃棄物達の超能力による殺傷能力に加え、ゴブリン、竜もいるため、漂流物側が敗北しそうになった時、時空から戦闘機(零戦? 紫電改? よくわかりません)に乗った漂流物、菅野直が出現して、辛くも絶滅をまぬがれます。その頃、豊久は自分達をここへ連れてきた、十月機関という組織の密偵の女をつかまえたのでした。
2巻では、女は十月機関のオルミーヌ(巨乳、眼鏡美女)と名乗り、ここはオルテ帝国が支配する世界で、エルフを農奴として迫害していること。さらには、廃棄物(エンズ)達は、ひたすら破壊と戮殺(りくさつ。殺戮の間違いでは?)を行なっており、それを防ぐべく、漂流物を集めている、と話しました。が、信長は、「俺達(ドリフターズ)が天下を奪ればよいのだ」と断言し、豊久を頭に、那須与一ともどもエルフに味方し、帝国軍と戦い、華々しい戦果をあげていきます。やがて、信長は豊久に息子の信忠のおもかげを、豊久も信長に父のような親しみを感じるのでした。
また、帝国と戦う漂流物は、グ=ビンネン、山口多聞が、廃棄物側では、ラスプーチン、ジルドレが加わります。やがて、黒王軍は、豊久らを捕捉し、エルフ達を巻きこんでの乱戦に。ジャンヌVS豊久、ジルドレVS与一の戦いとなります。与一はジルドレの体の急所に、いくつも矢を命中させるも、びくともしません。それを見て、「はははー弁慶みてえ 超なつかしー」と、おもしろがる、漂流物か廃棄物か不明の、かつての与一の主、九郎判官義経。信長は黒王軍にダメージを与えますが、彼らの廃城は炎上しており、謎の人影が獲物を求めてさまよっています。一進一退、予測不可能の状況下、ドリフターズの運命は?
はい、大ヒットしている漫画ですよね。今後、恐らく映像化されても、漫画大賞をとるのは難しく、むしろ、青少年条例に、残酷漫画としてひっかかるのではないかと、危ぶんでおります。それくらい、登場人物が、十月機関側の者を除いて、勝敗に関わらず、戦わずにはいられない、中毒者というか、戦いのプロフェッショナルばかり! 省略しましたが、残酷描写は多いです。残酷系、激痛系が苦手な方は、ご注意ください。さらに、作者様の個性でもありますが、登場人物達の外見、話し方がかなり現代的かつ平野耕太的(?)で、歴史パロディー、歴史パラレルと見なしにくいでしょう。豊久(30歳。主人公にしては、かなり年長かな?)は一見、現代の男性と変わらないです。そりゃあ、エルフの国で甲冑姿でい続けるのは不可能でしょうが、最初は戦国武将っぽくしてほしかったなと、私は残念に思います。それに、漂流物も廃棄物も、時代や出身国がばらばらなのに、言葉には不自由していないようで、これはオルミーヌの魔法のお札が役立ったのでしょうかね?
また、平野耕太さんのこだわりかもしれませんが、登場人物が眼鏡装着率が高い・・・・はずですが、十月機関の紫、オルミーヌ、廃棄物のラスプーチン(歴史では、じいさんだったはずなのに、長髪の美青年)・・・・くらい? 『HELLSING』よりは、ずっと少ないですな。
そういうわけで、この漫画はエルフ、ゴブリン、竜などが登場するファンタジーともいえますが、壮絶かつ壮大な、戦争物語とも言えるわけです。歴史ファンが、「もしAとBが戦ったら、どっちが強いかな?」「でも、Aは○時代だし、Bは△時代だから、実際に顔を合わせられるわけないか」と、予想して楽しみ、実際は無理だとあきらめていた、プロフェッショナルや天才同士の戦いが展開していくのですから。その上、あらすじでは省略しましたが、信長や豊久の戦略がおもしろいです。そして、彼ら三人の、戦国武将的な価値観を含ませた会話の応酬にも興味を惹かれます。
そう、この漫画は、歴史の「もしも」が現実化したおもしろさ、大勢で戦うスペクタクル、痛快さがダイレクトに表現されています。何よりも、大作によく現われる、「今後の展開予測不可能」さが、たまらない魅力を持っています。豊久らも濃いキャラクターですが、最大の敵であるらしい黒王(マントのような長い布で全身を包み、人相も不明)でも、醜いゴブリン達に対する慈悲と、それと相反する、人間への憎悪、破壊衝動を持っています。先導役のオウムの台詞(1巻)は、妙に新約聖書に見受けられる言葉に似ており、黒王の正体は、もしかすると・・・・と、想像し、わくわくしてたまりません。
ところで、以上の感想に水を差すことを、私自身が申し上げましょう(おいおい)。この漫画および作者様の最大欠点なのですが、単行本発行ペースが遅すぎ! 2巻まで1年も待たせるって、3巻が出るのは来年の秋ですかね。まあ、私のような遅読者にはいいのかも。忍耐強く、今までにないパワフルな魅力を持つ漫画をお探しの方にお勧めです。私はもちろん、3巻も購入しますよ。それでは。
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