『空が灰色だから』1巻(阿部共実)の感想
漫画『空が灰色だから』1巻(阿部共実・秋田書店)の感想を申します。ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。
これはめったにないような、魅力的な作品集です。裏表紙の紹介によると、「10代女子を中心に、人々のうまくいかない日常を描くオムニバス・ショート12篇」ということだそうです。間違っていません。けれども、作者様の絵の魅力について、あまり語られていないのは惜しまれます。表紙はもちろん、フルカラーなのですが、白地に赤の水玉の背景に、赤い傘をさした白のワンピースの少女(第4話のヒロイン、大村いちごらしい)、そして大きな黒のタイトル文字など、すばらしいセンスを感じるのですが。さらに、本編を読んでいても、大ゴマのみならず小ゴマさえも、ライトノベルの挿絵を見ているような気分になりました。ポップアート風というのでしょうか。デフォルメも効いていて、基本、かわいらしい感じです。
この作者様の他の漫画『破壊症候群』については、以前に述べたとおりで、この単行本も早くから欲しいなと思いつつ、なかなか購入できず・・・・2巻も読んで、一緒に感想を述べようとしたのですが、これも本屋様で品切れ中・・・・今、漫画の精霊様は、ご機嫌ななめのようで。しかし、予想を裏切って期待を上回る出来です。十代女子、特に女子高生がヒロインのお話が多いですが、作品のテーマが彼女達の心理や感受性の描写ですので、ある意味、実に汚くて生々しい。重い内容と、かわいい絵柄のギャップに、めまいがしそうです。これで救いようのない結末ばかりだったら、あまりお勧めできないのですが、お話によっては、胸にジンとしみて涙ぐんでしまいそうになったり(第3話)、ぷっと、吹き出しかけたり(第1話・第8話)、甘酸っぱいラブコメ風だったり(第5話)。さらに、第7話なんて、ほのぼのホラーでコメディ(ラブコメ?)と、分類しにくいものもあります。
けれども、私が感じるこの作品の魅力は、自意識過剰な10代女子の心理(いや、今は大人視点になったからそういえるのですが)を緻密に描いていることと同時に、私達の日常においても、「そういうことって、経験ありかも」的ブラックな情念に、共感を覚えてしまうところです。
特に、ワタシ的お勧めは、週刊少年チャンピオン誌上で初めて読んだ、第4話。パッとしない自分を変えようとして、ヒロインのいちごは、ブランドの限定ワンピースを入手しようと必死になりますが、様々な妨害が起こります。そして、その日の最後に、とんでもない運命のどんでん返しが! というもの。こう書くと、まるで、いちごがホームレスになったり、イケメン俳優とつき合ったり、みたいですが、あくまで日常のお話です。考えようによっては、私達が後日、大半忘れてしまう日常って、本当はこういう恐怖に彩られているのかも。
そして、大嫌いな親友を忘れられない、そんな無様な自分こそ大嫌いという、恋の切なさにも似た第2話。巻末書き下ろしの、風邪声も、確かにありそう!
そういうわけで、2巻もものすごく楽しみな漫画です。次こそは、絶対に購入しますとも。それでは。
| 固定リンク | 0
「アニメ・コミック」カテゴリの記事
- 『ベルセルク』10巻(三浦建太郎・白泉社)の感想(2024.09.16)
- 『新九郎、奔る!』17巻(ゆうきまさみ・小学館)の感想(2024.08.25)
- 『ベルセルク』9巻(三浦建太郎・白泉社)の感想(追記)(2024.08.17)
- 『ベルセルク』9巻(三浦建太郎・白泉社)の感想(2024.08.14)
コメント
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
投稿: ビジネス作法 | 2012年7月16日 (月) 09時55分
ビジネス作法様、おほめの言葉をいただき、ありがとうございました。
同じ週刊少年チャンピオン系単行本でしたら、『りびんぐでっど!』(さと・秋田書店)も、かわいくてお勧めです。
なのに、『りびんんぐでっど!』の2巻、『土竜の唄』『ベルセルク』、読み終わっているのに更新していないことに気づいて、私はひたすら精神的土下座をしております。
そんなトロいブログですが、よろしければ、またいらっしゃってください。
投稿: 紅林真緒 | 2012年7月17日 (火) 01時00分
「空灰」のコミックス、なかなか売ってないですね〜。
いつも贔屓にしてるTSUTAYAにはなくて、ちょっと遠回りのショッピングセンターに入ってる本屋でやっと買えました。
取り扱い数が少ないんだと思います。1冊しか無かったし。
2巻の表紙は黄色メインなので3巻はブルー…という予想を覆して欲しいです。
1巻に収録されている、チャンピオン短期連載時の4作でスゴいスゴい!とこの作者の虜になっているんですが、私としては心の奥底をえぐるような話に引かれます。
まあ、他愛も無い女の子の日常を描いたモノも良いですけど。
毎週連載で尚かつ、毎回主人公(たち)と世界観の違う短編を描けるこの作者の才能に脱帽しています。
別冊チャンピオンに連載されている…と言ってもまだ始まったばかりですけど、「ブラックギャラクシー」の方は如何ですか?
投稿: 火鷹深雪 | 2012年7月28日 (土) 06時52分
火鷹深雪様、いらっしゃいませ。
コメント、ありがとうございます・・・・というか、返信が猛烈に遅れて、すみません!
別方面の文章がうまく書けず、七転八倒して(現在進行形)、気が回りませんでした。
心の奥底をえぐるようなお話、ですか。
確かに、いくつかはそうですよね。
実際、肉体的なものと精神的なものを比較すると、前者が生々しくて下品で、後者が美しく崇高、という印象を持ちがちですが、私は『空灰』から、心というやつが、いかに不純な存在か、思い知らされたような気分になっています。
もっと、有名になってくれるといいですなあ。
ちなみに、まだ2巻は購入できていません(オイ!)。
これはもう、オンライン書店で注文するしかないかも。
「ブラックギャラクシー」は、ごめんなさい、未読です。
一度は立ち読みでも(コラ!)、読んでみます。
案外、はまるかもしれませんね。
投稿: 紅林真緒 | 2012年8月 3日 (金) 00時23分