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2015年1月 2日 (金)

『れくいえむ』(郷静子・文春文庫)の感想

 明けましておめでとうございます。小説『れくいえむ』(郷静子・文春文庫)の感想を申します。

 いつものように、ネタバレにご注意、と申したいところですが、さほど意味はないでしょう。なぜなら、このお話はヒロインの女学生、大泉節子を含めて、主要登場人物がすべて死亡するという、とてつもなく悲惨な物語なのですから。そういう点では、以前にレビューした水木しげるの『総員玉砕せよ!』 と、戦争の恐ろしさを描いているという点で似ているというべきでしょう。『総員玉砕せよ!』 が最前線に立つ軍人の苦悩を描いている、男性の物語だとすれば、『れくいえむ』は、立派な軍国少女として、あの時代の日常を生きた少女の、苦悩と絶望を表した、女性版ではないかと思います。

 しかしながら、この小説は、一見、改行が少なくて読みにくそうなところが、結構損をしていますね。さらに、死病に侵されて、余命わずかな節子の、記憶の数々をたどっていくというストーリーの流れゆえ、時系列が飛び飛びになっているため、一読した限りではわかりにくいかもしれません。それでも、なぜか、『れくいえむ』には、戦争のむごさを語るだけではない、透明で美しい魅力があります。
 節子の思い出のいくつかは、愛らしいユーモアや、みずみずしい恋のときめきに満ちあふれ、実にうらやましくも、ほほ笑ましいものだからなのでしょうね。取り分け、沢辺惇という学生との、明らかに相思相愛でありながらも、互いの思いを口に出さずに、ひたすら思いやっている様子は実に美しい。

 さらに、読書を通じて知り合った、丹羽なおみと交換日記のようなことをしているのですが、これもなかなかおもしろいです。丹羽家は、父親が当時の社会情勢に都合が悪い学説を発表して、それを撤回しなかったために投獄されてしまった、節子とは正反対の非国民の一家です。が、なおみは空襲の際に逃げもせず、獄死した父の骨壺と遺品の蔵書類もろともに、母と一緒に焼死しました。なおみが節子にあてた最後の文章は、今読んでも泣かせる内容です。
 真面目な軍国少女たらんと、懸命に生きてきた節子ですが、なおみを失い、空襲で父が行方不明になった後、互いに励まし合ってきた母が撃たれて死亡した時には、激しく慟哭します。この頃にはもう、節子は戦争が当初喧伝されていたような美しいものではないと、察知していたのですが、時すでに遅く、体の不調を隠して軍需工場で働き続けたために、手遅れの状態になっていたのでした。終戦を迎え、一人ぼっちになった彼女にとって、救いとなるのは、病気の快復ではなく、大切な家族や愛しい人達が待っていてくれる、あの世でしかないというのは、何とも痛ましい。
 この瞬間にも死ぬかもしれない戦争のただなかにあるのも、壮絶な苦しみでしょうが、日常生活において、家族の無事を祈ってひたすら待っているのに、いつまでたっても現われなかったり、戦死の知らせであったりしては、残された者は胸が張り裂けそうな思いになるでしょう。その意味で、何年たとうと、戦争のことは忘れてはいけないし、賛美してはならないものだと思います。
 先日、この作者はお亡くなりになったそうで、ご冥福をお祈りします。それでは。
 

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