『京都・大阪・神戸の喫茶店 珈琲三都物語』(川口葉子・実業之日本社)の感想
『京都・大阪・神戸の喫茶店 珈琲三都物語』(川口葉子・実業之日本社)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
「コーヒーはね、自分が点てて、自分でおいしいと思うた味でないと駄目なんですわ。好きじゃないけど店で売れそうだから出すというのは、絶対に崩れてくるんです。うどん屋さんだろうが鰻屋さんだろうが、長いことやってはる店というのは、いかにも頑固そうに味を守っているようにとられるけども、そうやなしに、いつも自分の好きなものを、自分も食べたいしお客さんにも提供したいだけなんやないかな。そう大層なもんやないけども」(京都・TEA ROOM扉)
「詩は言葉のエキス。この一杯はコーヒーのエキス。飲むポエムや」(大阪・ミュンヒ)
ああ、これらはまさに珠玉の言葉! お店やコーヒー等の飲食物への賛美やプライドであると同時に、人生訓のようにも感じられます。できれば、もっと取り上げたいのですが、キリがないので、ごめんなさい。
他にも、京都の名店、六曜社対談、フリーペーパー「甘苦一滴」編集人・田中慶一さんと作者様のトークなど、この本は喫茶店ガイドの枠を超えて、三都の喫茶店の魅力を語り尽くし、その魅力に読者を誘う、ノンフィクション作品なのです。
喫茶店、コーヒーなどが好きな人は、きっと、今すぐにでも近くのお店に出かけたくなるでしょう。掲載されているのは、歴史ある名店が多いのですが、割と新しいお店もあり、さらには、名曲喫茶、ジャズが有名なお店、ホットケーキにサンドイッチ、カレーなどなど、枠組みがあるようで、予想外にフリーダムなのです。
そして、三都の喫茶店は、地域別に明らかな個性を持っていることを、この本で初めて知りました。各店のつながりの強い京都、コーヒー専門店的な神戸、大阪は・・・・これは読んでみて確かめてみてください。
さらに、ちょっと変ですが、私的な気づきとしては、東京でコーヒーを飲んだ際、「濃いブレンドだとガイドブックに書いてあったのに、これ、アメリカンとまでは言わないけど、薄めの普通じゃないか。私の舌がおかしいのかな」と、怪訝に思っていたのですが、この本を読んで理由がわかりました。どうやら、私は大阪のコーヒーの味になじんでいて、それがスタンダードだと思いこんでいたようです。
そういうわけで、実に読み応えのある、喫茶店エッセイでした。マイナスポイントがないなんて、本当にめったにないですもの。作者様の他の本もまた読んでみたいです。それでは。
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