『おとなになれなかった弟たちに・・・・・』(米倉斉加年・偕成社)の感想
『おとなになれなかった弟たちに・・・・・』(米倉斉加年・偕成社)の感想を申します。イクツカノネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
初版が1983年11月で、私が手にしているのは、2005年10月第40刷ですから、ロングセラーですね。右ページが文章、左ページが絵(鉛筆一色で描かれたような、全部モノクロ)という形式で、絵本といえるでしょう。非常にわかりやすいシンプルな文章ゆえ、童話とも呼べるでしょうね。
あらすじとしては、タイトルそのままです。米倉斉加年本人であろう、国民学校四年生当時、太平洋戦争で出征して父が不在のうちで、母や祖母、妹、そして、生まれて間もない弟のヒロユキとの暮らしを語る、というもの。
悲しいです。救いようがありません。文章自体が短いので、短時間に、するりと読めるでしょう。けれども、大半の絵が、暗く、重く、痛々しいです。それだけに、表紙と作中のヒロユキの肖像画のような絵は、本当に愛らしくて、天使のようです。ゆえに、いっそう、戦時中の一家の痛ましさを際立たせて感じさせます。
空襲でも騒がず、ミルクがなくても、おとなしかったヒロユキは、皆に見守られて逝ってしまいましたが、たった一人で家族を守り、必死で働いたのに、力及ばなかった母の、涙を流し、あるいは、虚ろな表情などは、私はひどく胸にせまり、泣きそうになりました。
米倉斉加年の絵は、よく気持ち悪いと評されるようですが(私は大ファンです)、この絵本はそのようなクセはありません。戦争童話として、お勧めいたします。それでは。
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