『僕はサラ金の星です!』(安部慎一・青林工藝舎)の感想
コミック『僕はサラ金の星です!』(安部慎一・青林工藝舎)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
そんなマイブームが起きている、安部慎一(槇一と印刷されている本もあります。どちらが正しいのかな?)作品ですが、一番にお勧めするとすれば、私はこちらですね。
収録されている作品は、大半がエロマンガに分類されるのでしょうが、作風も画風も、かなり癖? 個性? があるゆえ、ついていけない方もおられると思います。このように言う私も、頭の中が、「????」だらけで、感想のカの字も出ないお話もありますから。
少なくとも、通常の、読者サービス満載のエロマンガ、怒涛のような展開、独創的な設定といった、メジャー王道漫画的なものは、ほとんど含まれていないかと思います。
冒頭の、『僕はサラ金の星です!』にしても、ストイックな主人公の室井と対照的に、あっさり身を持ち崩す人妻、せっかく室井に助けられたのに、悲惨なことになる女子高生と、エロいにはエロい、のですが、スクリーントーンを使っていないような緻密すぎる描きこみ、デフォルメしすぎのような女体の描かれ方に、頭がクラクラしてきます。
『やさしい人』は、1970年のデビュー作だそうで、ストーリー的には、「え、もう終わり?」という感じなのですが、わびしいような余韻が残ります。
『久しぶり』は、私小説ならぬ私マンガ? 登場人物達の視線が、妙にぼやけているのが気になります。
『殺人事件』、淡々としたナレーションやモノローグが流れる一方、事件の描写はすさまじいです。
『15才のミヨちゃん』、転校してきた美少女に、こんなむごい仕打ちが待っていたのでしょうか? それとも、彼女に恋する三村の、想像物語? 『やさしい人』からこちらまで、まるで漫画家志望者が一生懸命描いたっぽい、ラフな感じで描かれています。それから、一転して、リアルで精密な劇画絵に。
『剣道劇場』、少女の揺るがない、強い眼差しが好きです。彼女も、美代子という名です。
『結婚物語』、また驚くほどのシンプル絵に。おでん屋から、男の一人暮らしの一室へと移動しながら、行きずりの男女が語り合います。うらわびしい、寒々しい感じから、ほっこり温かく、未来に希望が持てるような雰囲気に変わるのがいい。この本の中で、私の一番のお気に入りです。
『いらっしゃいませ』、ラフっぽい絵です。風俗のドロドロ話? 怪談? と思いきや、ハッピーエンド? 幽霊がかわいそう。
『炭鉱情話』、未発表の短編6作です。炭鉱のことは、歴史の教科書か歌ぐらいしか知らないので、その凄惨な境遇については、私はただ、絶句するしかないのですが・・・・エロいです。男女は、地獄の底にいようとも、互いに求め合い、つながり合うものだと、痛感させてくれます。
以上、たどたどしい文章でしか書き表せず、残念です。しかしながら、漫画というよりは、純文学の小説を読んだかのような、心にずっしり残る気分にさせてくれる、稀有な作品だと思います。私はとても好きですね。それでは。
| 固定リンク | 0
「アニメ・コミック」カテゴリの記事
- 『楠勝平作品集 彩雪に舞う……』(青林工藝舎)の感想(追記)(2022.05.27)
- 『楠勝平作品集 彩雪に舞う……』(青林工藝舎)の感想(続き)(2022.05.21)
- 『楠勝平作品集 彩雪に舞う……』(青林工藝舎)の感想(2022.05.15)
- 『貴婦人狩り』(笠間しろう・ソフトマジック)の感想(2022.05.04)
- 『孤独のグルメ』文庫版・新装版(原作:久住昌之 作画:谷口ジロー 扶桑社)の感想(追記)(2022.05.03)
コメント