『淫花伝1 [阿部定]』上・下巻(画:上村一夫 原作:戸田昌子 脚色:岡崎英生)の感想
読了して間もない、豪華仕様のコミック『淫花伝1 [阿部定]』上・下巻(画:上村一夫 原作:戸田昌子 脚色:岡崎英生)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
あらすじは、かの有名な阿部定の生涯、でなく、半生を描いています。脚色つきだから、フィクション込みです。なので、アダルト系(しかし、成人指定ではないのです。性器や結合部分とかを、描いていないからでしょうかね?)嫌いな方と、「阿部定は実在の人物だから、ノンフィクションでなくちゃ!」という方には、不向きかと思います。
私的にいただけない点としては、セリフ部分に誤植? 校正ミス? みたいなものを、一か所、見つけてしまったのです。ひょっとして、もっとあるかも。きれいな装丁の、高い本なのに、これはがっかり。
けれども、全体的には、エロくて、いい雰囲気です。中心となるのは、やはり、石田吉蔵との泥沼愛欲生活を描いた下巻の方でしょうが、上巻も十分に読み応え(見応え?)があります。たとえば、第二章で少年と定がまさぐり合うのもいいですが、第三章は、特に。男といちゃつく→厠→父とうなぎを食べる→巡査に説教される→父になぐられるといった、大していやらしくもないはずの場面が、淫靡に感じられてしまう、上村一夫の表現力は本当にお見事です。
だからもう、下巻の、定と石田の情交の、しつこさ、粘っこさ、無限ループぶりは、開いた口がふさがらないと、言うべきでしょうか。クールになってみれば、貧困の中、お互いの情欲を満たすことしか頭にない、愚か者どものの破滅行為といえるでしょうね。
二人の絡み合いに比べれば、一般的に変態といわれるSMが、理性と知性を交えた、高等性行為に思われてくるくらいです。
しかし、定が石田を殺害して、あのように遺体をもてあそぶ? まで、互いを高め合い、求め合った果ては、情欲以外のものがない、不思議な純粋さが根底にあるのも事実です。
ゆえに、阿部定事件は、長らく語り継がれているのでしょうが、私はやはり、こんなどん底関係は、絶対にごめんです。やりたくも、されたくもありません。なのですが、ちょっとだけ、うらやましくもあるのです。とにかく、上村さんの卓抜した画力で美女になり、インパクトある愛欲物語になった阿部定は、幸せだなあと、思いました。それでは。
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