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2019年2月28日 (木)

『同棲時代』全4巻(上村一夫・双葉文庫)の感想

 コミック『同棲時代』全4巻(上村一夫・双葉文庫)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 あらすじは、22才の今日子と23才の次郎が同棲を始め、終わりを迎えるまでが描かれています。VOL.1から、すでに二人は相思相愛でくっついていますから、まあ、こうなるだろうな、という予想どおりの結果でしたね。自然な形ではありますが、バッドエンドともいえますから、そういうものが嫌いな方は注意された方がいいかと、思います。
 今日子と次郎のみならず、二人が知り合った人々もストーリーになっていますが、それらは小話的なもの。一話ごとに終わりながらも、緩くつながり、ラストへと進んでいくスタイルです。

 いただけないところとしては、やはり、時代が古い! 2巻VOL.16で、今日子がコーヒーが一杯300円もすると、知り合った老人にぼやきますが、私は読んだ瞬間、「たったのそれだけで?」と、つい思ってしまいました。
 当然ながら、携帯やメールも登場しません。だから、3巻ラストで、次郎とはぐれた今日子が、人混みの中で慟哭するわけです。当時としては、互いを呼び捨てにし、結婚という枠組みにとらわれないのが最先端だったのでしょうけれどね。
 さらに、フェミニズム的感想を述べますと、この次郎という男は、最低だと思います。フリーイラストレーターで、OLとして働く今日子より、時間はたっぷりあるくせに、全然、家事をやろうとしないし、簡単に娼婦と関係しますから。
 何よりも、穏やかそうでいながら、今日子にはDV気味に暴力をふるうのが許せない! そんな次郎を、今日子は、時には激怒したり泣いたりして、結局、受け入れてしまうのが、またまた信じられませぬ。これも、昭和的な価値観なのでしょうかね。
 しかし、そんな納得のいかない点を除きますと、このお話は実によく描かれ、表現され尽くした、極上のラブストーリーだといえます。
 たとえば、各話の冒頭で、何度となく繰り返される詩のような文章は、次のとおり。

 愛はいつも
 いくつかの過ちに満たされている

 もし愛が美しいものなら

 それは男と女が犯す
 この過ちの美しさに
 ほかならぬであろう
 そして 
 愛がいつも
 涙で終るものなら
 
 それは
 愛がもともと
 涙の棲家だからだ

 少々長くてすみませんが、ラブソングの歌詞のようではありませんか。
 また、『同棲時代』の画像を検索してみてください。涙を流す今日子が、実にきれいに描かれています。多くの漫画家やイラストレーターの中でも、美女の涙をもっとも切なく、しかも美しく描けるのは、上村一夫一人なのではないかと、思います。
 物語は3巻終わりあたりから、今日子が妊娠してしまい、4巻から彼女は心の病気になって、療養のため、二人は引き離されます。思いがけず、今日子は完治し、次郎の元へ戻って来ます。
 そこで、夜明けに、今日子は、「熱い味噌汁が飲みたくない?」と、言うのですが、次郎は、「この寒さをよく覚えとこう……」と、静かに拒絶します。
 情や雰囲気に流されず、恋? 同棲? の終焉を受け入れたゆえ、私は少し次郎を見直しました。
 4巻ラストで、淡々と言葉を交わしながら、互いをじっと見つめ合う、今日子と次郎は、実に美しい名場面だと思います。
 結局、同棲という自由恋愛の形をとりながらも、結婚の束縛に、二人はあこがれていたのか、それとも、その呪縛に踏みつぶされたのか。
 次郎の収入が安定していれば、二人はいつまでも幸せな同棲を続けていられたのか。
 だとすると、「愛こそすべて」という、恋愛の大法則が崩れてしまうのでは?
 そして、私が想像するに、今日子と次郎は、いつか別の相手と結婚し、家庭をつくったとしても、互いのことを死ぬまで忘れないだろうと、思うのです。これこそ、真実の恋愛の醍醐味なのではないでしょうか。
 ともあれ、非常に奥深い作品です。恋をしている方、恋愛とは何かと考えている方、ラブストーリーに、どっぷりはまりたい方にお勧めです。それでは。

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