『美代子阿佐ヶ谷気分』(安部愼一・ワイズ出版)の感想
コミック『美代子阿佐ヶ谷気分』(安部愼一・ワイズ出版)の感想を申します。ネタバレが含まれているかもしれませんので、ご注意ください。
これからも、私は様々な漫画を読むでしょうが、恐らく、この作者様の感想はトップクラスに難しい。その理由は。
大半の作品(短編)が、ストーリーがあって、ないようなものだからです。ゆえに、伏線やその回収、どんでん返しもない・・・・と、思います。
少なくとも、ジェットコースター展開、胸躍るようなワクワク感はありません。あらすじを紹介しようにも、男女がいて、ある日ある時の日常を描写したもの、としかいえませぬ。
だから、漫画に非日常的なエキサイトを求める方にとっては、退屈極まりない作風です。
加えて、細かくていねいに描かれているのですけれども、平板的でバランスがおかしくて、雑に描きなぐっているようにも見えます。
ところが、「素人臭い絵だなあ」と、ぼーっとページをめくっていると、思いがけず、胸に突き刺さるようなシーン、絵、セリフが出てくるわけです。
エロかったり、汚かったり。
悲しくて、笑えて、腹立たしくて、涙ぐみそうにもなります。
けれども、手帳に記しておきたいような、名セリフってわけではないのです。
本当に、男女の間に流れ、交わされる、空気、雰囲気、熱情、「気分」を味わい、時には翻弄される作品だと、思います。
情熱はあるけれども、うまく表現できない。平穏な生活を望みながら、放蕩に走ってしまう。
別れたい、でも、結局、互いを求め合う。
そんな滑稽なようで痛々しい、ごく当たり前の人間の姿や思いが、とても胸にせまってきます。
漫画というよりは、純文学の小説を読んでいるような気分になりました。
ご興味のある方は、読んでみてください。
タイトル作品と、「阿佐ヶ谷心中」、両方に登場するヒロイン、実にきれいだと思います。それでは。
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