『トトとタロー』(絵:米倉斉加年 文:かの アートン)の感想
書籍『トトとタロー』(絵:米倉斉加年 文:かの アートン)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
このお話は、童話、もしくは、絵物語にあたるのでしょうね。同じ米倉斉加年作の『多毛留』よりも、子供向けに描かれているように思えます。『多毛留』は、良くも悪くも、エロい雰囲気と、独特の不気味さがありましたから、『トトとタロー』の方が万人向けかも。
そうは言っても、薄気味悪さのニュアンスは軽めながらも(ファンである私の目から見て、ですが)、ちゃんとあります。
それから、米倉斉加年の絵は、子供が実に愛らしく、その本領は発揮されています。
(ちなみに、清純な少女も非常によいです)
あらすじとしては、海にトトという小さな魚がいて、大きくなりたいと念じます。そして、自分より大きな魚を食べられていくうち、途方もない大魚になります。一方、陸にはタローという元気な男の子がいて、トトと出会い、不思議な言葉を受け取るのでした……。
読後感は、切ないです。トトは大きくなる夢がかなったものの、絵のとおりですし、かわいかったタローは、いつの間にか、どこかに行った? 消えた? と、見えて、ラストは静かに幕を下ろしています。
命を与える、命をもらうということは、こんなに切実なことなんだなあと、思わせてくれます。
一方、トトのありがちな願いは、他魚をかえりみないゆえ、悪いものだったのだろうか?
種族が異なるゆえ、交じり合わないはずだったタローは、トトの罪を背負ったのかな?
命のやり取りという意味では、帯カバーで米倉氏が言っておられたように、これは争いの寓意なのかもしれませぬ。
などと、私は思いました。奥深い絵物語で、やはり、大人向けに感じられました。それでは。
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