『たんときれいに召し上がれ 美食文学精選』(津原泰水 編・芸術新聞社)の感想
書籍『たんときれいに召し上がれ 美食文学精選』(津原泰水 編・芸術新聞社)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
さて、サブタイトルに、「美食文学精選」とありますように、食事や食物にインパクトのある、アンソロジー本です。税別2,900円と高額なのが、痛いところですが、私としては、買ってよかった! この読み応え、読後(食後?)感は、並々ならぬものです。ダイエッター様には、お勧めできない、と申したいところですが、それならば、清水義範「全国まずいものマップ」、正岡子規「仰臥漫録二」などをお読みになればいいですし、あるいは、展開が予測できない(しかも、美食文学のはずが、妙にエロい!)、筒井康隆「薬菜飯店」。さらには、芦原すなお「ずずばな」、津原泰水「玉響」がいいでしょう。が、「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」(石井好子)、「天どん物語-蒲田の天どん」などを読んだら、やっぱり、ダイエットは失敗になりそうですね。
この本は、36品も収録されており、500ページを越えています。通勤通学の電車内や、出先で読むには、ちと辛い重みと厚みですが、編者様の解説に加え、作家達のプロフィールも載っており、大変な親切仕様です。
だから、感想と言っても、そりゃあ、好みでないのもありました。けれども、所見の作家が多いゆえ、作風のお試しにもってこいでしたし、何よりも、私は食い意地が張っておりますから、精神的箸が止まらない、というか、ページを繰る手が止まらない、と申しましょうか。
はあぁ、おもしろかった、おいしそうだった、泣けた、感動したなあ、と、お腹一杯の感想が出て来た本は、とても久しぶりです。
例に挙げた作品は、皆、よかったですが、特に印象に残った作品は、次のとおり。
開高健「中年男のシックな自炊生活とは」
古川緑波「神戸」
上村一夫「雛人形夢反故裏」(漫画です)
色川武大「右頬に豆を含んで」
中島らも「啓蒙かまぼこ新聞(抜粋)」
石井好子「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」
正岡子規「仰臥漫録二」
最後の「仰臥漫録二」は、泣かされました。病気に苦しみながらも、その苦しみや療養食、薬さえも(芸術として)表現しようという、激しい気概を感じられたからです。苦悶しつつ、絶望せず、生涯と俳諧の道をまっとうした。正岡子規にとって、食とはそういうものだったのでしょうね。お勧めです。それでは。
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