『ファーブル昆虫記 8 伝記 虫の詩人の生涯』(奥本大三郎 訳/解説 集英社)の感想
『ファーブル昆虫記 8 伝記 虫の詩人の生涯』(奥本大三郎 訳/解説 集英社)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
私は元々、虫が好きなので、いつか、ファーブル昆虫記全巻を読破したいと願っております。そこで、どの出版社の、何という翻訳者のものがよいかと探している途中で、この本を購入いたしました。
巻末の説明によりますと、この本はファーブル昆虫記全8冊中の最終巻で、10歳から大人向けだそうです。そのせいか、漢字にルビが多く、写真もイラストも豊富な、親切仕様の楽しい本です。
欠点としては、昆虫の写真に加え、イラストもリアルですので、虫嫌いの人には大変でしょう。私としては、イラストを複数の方が描かれているのはいいのですが、漫画っぽいかわいい絵に、少し違和感があります。
それでも、この本はファーブルの伝記として、非常に読み応えがありました。
ファーブルの幼年時代はアンリと、成人してからは、ファーブル先生という主語で描かれていますが、不自然さはありません。
ファーブルが生前、あまり社会に認められていなかったことを、子供の頃に読んだ昆虫記で、私はぼんやり覚えていましたので、彼は独身だったのかと思っていたのですが、大間違いでした。大勢の子供達がいましたし、二度も結婚していたのです。さらに、彼は91歳まで生きました。
けれども、ファーブルの生涯は晩年まで、ずっと貧困との戦いでしたから、安楽な人生とは言い難いです。加えて、両親、二人の妻、子供達との死別を繰り返し、取り分け、50代の頃、後継者にふさわしい才能の持ち主だった、次男のジュールの早世は非常に痛手だったようです。
19世紀のフランスは、産業革命という大変革の真っただ中で、有能な人材を、財政的に支援する制度はありませんでした。だから、ファーブルは生来、かなり聡明でしたが、有名な学者達から軽んじられたため、実験においても、精一杯の工夫をしなければならず、本当に苦闘続きの人生だったなあと、私はため息が出てしまいます。私はあまり根気強くないので、あっさりあきらめるでしょう。 そのような苦悩と貧困の中でも、昆虫や動物の不思議な生態、ユニークで美しい姿は、ファーブルの心を大いに慰め、研究へと奮い立たせていったのです。
ついに、死の病に見舞われた時、自宅の庭を見つめながら、自然の魅力を再認識する場面や、ラストシーンの、死をも超越したかのような墓碑銘に、私は目頭が熱くなりました。
他にも、幼いアンリが、大きなハムの塊が入ったスープの描写は、実においしそう!
不運な学者の人生だけとは言い切れない、フランスの自然や風習について楽しむこともできます。お勧めです。それでは。
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