『黒猫館・続 黒猫館』(倉田悠子・星海社)の感想
『黒猫館・続 黒猫館』(倉田悠子・星海社)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意下さい。
この小説は、稲葉真弓という覆面作家による、「くりいむレモン」なる美少女アニメシリーズのノベライズ作品なのです。
くりいむレモンについては、お調べになってください。
私が検索したところ、かわいいし、好きな方は萌えるでしょうが、今、わざわざ取り寄せるほどでもないかな、という感じでした。いわゆる、男性向けの愛らしさ、ご都合主義ゆえでしょうね。
それなのに、私はTwitterでこの作家様のことを知り、現在、ノベライズ作品が高額であることを知って、半ばあきらめていたのですが、復刊されて、ラッキーでした。
読後感もまた、悪くなかった、どころか、うっとりしてしまいました。
あらすじとしては、『黒猫館』は、昭和十六年、書生の募集に応じて、大学生の村上正樹が訪ねた所には、豪奢な洋館があり、妖艶な女主人、鮎川冴子、その娘の有砂(ありさ)、少女のようなメイドのあやに迎え入れられます。そして、毎夜、地獄とも天国ともつかない、淫夢のような交わりを強要され、正樹自身も溺れていき、徐々に健康を害していきます。やがて、正樹は、ただならない鮎川家の悲劇と謎を知るのでした。
『続 黒猫館』は、昭和四十五年、弁護士となり、家庭を持つ身となった正樹ですが、なおも黒猫館の幻影に悩まされているのでした。終戦間もない頃、有砂そっくりの踊り子ミミに惹かれ、一時的に溺れたけれども死別して、いっそう法律の勉強に励むようになったこともありました。しかし、武蔵野に黒猫館によく似た洋館を見つけ、入った時、あり得ないことに、当時と同じ冴子と有砂が待っていました。ただし、メイドは、あやでなく、ふみという娘になって。再び、肉欲の宴が始まる、のか?
説明は省略しましたが、冴子は美熟女、有砂、あや、ミミ、ふみ、全員が美少女です。彼女達が、これでもかと裸体をさらし、催淫剤的な赤ワインを勧め、正樹にからみつく、けれども、互いを嫉妬したり、敵対したりしない、まさに男性中心ハーレムみたいなお話です。
私としては、年端もゆかないミミを、結果的にもてあそんで、捨ててしまった正樹には、気分が悪くなりましたけどね。
しかし、もし男性の方が官能小説気分でこのお話を読めば、エロいシーンは多いですが、具体的にアレがナニという描写はないので、拍子抜けされると思います。
エロチックなゴシック小説、それとも、幻想小説と申しましょうか。
太平洋戦争直前の暗い世相、それと対照的な黒猫館の豪奢さ、鮎川家の悲劇的運命などが、きちんと描写され、冴子や有砂を、だだの恥知らず女とは思えませんでした。
私は、時代背景は異なりますけれども、太宰治の『斜陽』を連想しましたね。
正樹は、冴子や有砂の誘う、美と快楽(表向きは死と破滅)に動揺し続けましたが、味気ない現世と、どちらが良かったのでしょうか。
この倉田悠子(稲葉真弓)作品は、絶品ノベライズと称され、説明されています。わずかながら小説を書いている私としては、どこをどのようにすれば、よい小説になるのかと、日々探求中ですから、非常に興味があって読了しましたが、良かったです。
絶品ノベライズとしての魅力や正解は、まだ測りかねていますが、ラノベにしては重い、でも読みやすさに配慮されている文体は、参考になりましたね。
実は、復刊された倉田悠子作品は、5冊全部所有しております。また、一冊ずつ紹介していきますね。それでは。
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