『エスカレーション』(倉田悠子・星海社)の感想
『エスカレーション』(倉田悠子・星海社)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意下さい。
前回の『黒猫館』と同じく、くりいむレモンのノベライズ作品です。
ところで、本の内容の感想とは別ですが、装丁が少し残念の方に向かっています。
『黒猫館』は「黒猫館」「続 黒猫館」と、2種類の艶麗な扉絵があったのに、『エスカレーション』、いえ、『エスカレーション』以降の、同じ出版社から発行されている復刻作品はすべて、それがありません。イラストは表紙だけで、私的にがっかり。
価格が150円安くなったせい?
だったら、『マイソング』は『黒猫館』と同価格なのに、なぜ扉絵がないのでしょうか?
大昔の、高額で出回っている、レアなノベライズ本の方が、イラスト付きという意味で勝ち、なのですかね?
うーん、納得できませぬ。
さて、あらすじとしては、「1 今夜はハードコア」では、大学生の家庭教師に片思いしていた、ヒロインのリエは、無残に失恋し、名門の全寮制女子高校に転校し、生徒会長の早川なおみ、同級生の碧との出会い、なおみとの心身にわたる関係の深まりといった、経緯が描かれます。
「2 禁断のソナタ」は、なおみ卒業後、途方もない寂しさに打ちひしがれていたリエは、碧に誘われ、もう一人の友達、真理を含めて、なおみの別荘に向かいます。そこで待っていたのは、なおみの父、弟をも含めた、淫靡なわなでした。
「3 天使たちのエピローグ」は、外国へ行ったなおみを思い、生徒会長に選ばれたリエは、多忙な日々の中にも、心を揺らめかせている毎日でした。そこへ、真面目な生徒達にしては異端児の一年生、亜里沙に出会います。まるで、転校したばかりの自分を彷彿とさせるような亜里沙に、リエは心惹かれ、肉の快楽を教え、導いていきます。やがて、リエは音大に合格した頃、なおみ帰国の知らせが届きます。
いわゆる、百合ノベルですね。それでも、ユーザーである男性向けの、夢というか、願望にストレートな作風です。
男性は、リエの家庭教師と、なおみの家族ですが、存在感が薄いですなあ。
私は終始、生真面目なリエよりも、少々病んでいるなおみや、彼女に忠実ながらも、ミステリアスな雰囲気の碧、当初は少しエッチなことに興味があるだけだったのが、優等生の仮面をかぶるようになった、肉食系の亜里沙が好きですね。
しかも、亜里沙の変貌は、女の子がいいというよりも、リエに対する純粋な思いなのですから、なおみ→リエ→亜里沙と、恋情は連鎖していったのです。
やはり、官能小説とまではいきませんが、上品な百合ノベルとしては、いいと思います。
百合は嫌い、という方以外は、お勧めです。それでは。
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