『月岡芳年 魁題百撰相』(二玄社)の感想
『月岡芳年 魁題百撰相』(二玄社)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
こちらは、「謎解き 浮世絵叢書」というシリーズで、描かれたポーズや表現等の不可解なポイントを、ていねいに説明してくださる、画集であると同時に解説書でもある、親切仕様です。しかも、それぞれの絵に添えられた詞書のみならず、その主文の現代語訳まで載せられていますから、とてもわかりやすいです。
監修は町田市立国際版画美術館、解説は小池満紀子・大内瑞恵。よい構成内容にしてくださって、大いに感謝いたします。
内容は、無惨絵で有名な浮世絵師、月岡芳年が、歴史上の人物百名を描いた作品、というのは表向きで、実は戊辰戦争の模様を、間接的に伝えようとしていたのでした。
だから、全部そうではないですが、流血表現が含まれています。さらに、出血多量で青ざめた唇、パックリ割れた傷口、生首、切腹時の苦悶の表情など、かなり痛々しい、恐ろしげな描写ですので、猟奇系が苦手な方にはお勧めできません。
私は以前に、図書館で無惨絵をチラ見して、精神的にドン引きしましたが、あちらは見世物的な表現だったのに対し、こちらは静かに、けれども、ジワジワ来るタイプです。
つい、その激しい残虐場面に目がいってしまいますけれども、よく見ると、乱れた髪、甲冑など、非常に精緻に描かれています。もちろん、冷静な表情でいる人々の描写もありますので、ほうっと、ため息が出てしまいましたね。
様式美オンリーだと、私が思っていた浮世絵はこれほど、リアルで動的で、時として静謐で、芝居絵のようであると、感じさせられました。
また、謎解き浮世絵シリーズか、月岡芳年の他の浮世絵を見たくなりました。お勧めです。それでは。
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