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2021年9月25日 (土)

『宇喜多の捨て嫁』(木下昌輝・文藝春秋)の感想

 書籍『宇喜多の捨て嫁』(木下昌輝・文藝春秋)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 今回、私は前のめりに書きますから、辛辣な表現になるかもしれません。できましたら、作者様とその信奉者の方は、どうぞご覚悟いただけますように。ただし、誹謗中傷は受け付けません。

 収録されているのは、次の6つの短編です。

 宇喜多の捨て嫁
 無想の抜刀術
 貝あわせ
 ぐひんの鼻
 松之丞の一太刀
 五逆の鼓

 特に、「宇喜多の捨て嫁」は、2012年にオール讀物新人賞を受賞した、有名な作品ですね。
 まあ、短編を別個に読んでもいいのですが、どれも、宇喜多直家にまつわる血生臭いエピソードを描かれており、緩くつながっていますので、通しで読んだ方が、わかりやすいと思います。
 あらすじは省略! では冷たいですから、超簡単に述べますと、戦国時代の梟雄、宇喜多直家をめぐるピカレスク時代小説です。
「宇喜多の捨て嫁」では、宇喜多家の四女、於葉が、非情な父に敵意を抱きながらも、嫁ぎ先の安藤相馬と、ひそかに争うお話。
「無想の抜刀術」、宇喜多家の八郎(後の直家)は、母とともに貧困にあえぎつつも、生まれながらの恐ろしい剣術の才の持ち主であった。
「貝あわせ」、妻や娘達と一緒に、貧しいながらも平和に暮らしていた直家ですが、主君の浦上宗景は、舅の中山信正、さらには祖父の仇、島村盛実までも殺害するように命じます。挙句には、直家の妻子まで……。
「ぐひんの鼻」、浦上宗景は、戦上手で有能な部下にもめぐまれた直家を恐れ、はかりごとをめぐらしますが、失敗続き。最後の手段として、ぐひんの鼻という危険な岩の上に、彼を誘うのでした。
「松之丞の一太刀」、浦上宗景の息子、松之丞は、直家の三女、小梅と結婚しますが、浦上家筆頭家老の直家の戦果はとどまりません。浦上側の軍監や家老が宇喜多家に入って内部分裂をねらっていたものの、直家に世継ぎが誕生。松之丞は奇策を用いて、舅を暗殺しようとします。
「五逆の鼓」、江見河原源五郎は、亡き父から、すばらしい鼓を受け継いでおり、浦上誠臣の家臣でありながら、楽士になりたいと、ひそかに望んでいました。折しも、宇喜多忠家とその部下に篭絡され、主君とその子を殺しますが、その代価は、母の刑死と、五逆とののしられることでした。けれども、はかりごとを続ける、宇喜多直家の身も、安泰ではなく……。

 読んでいて、辛くなってきませんでしたか? ピカレスク小説だけあって、愉快、痛快要素はありません。落ちこんでいたり、ダークな気分になったりしている時は、お読みにならない方がいいかと思います。
 私は読んでいる間、ずっと不思議な違和感を覚えていました。確か、週刊大衆の歴史コラムだったかな? 作者様の文章に初めて会ったわけではないのですが、文章の質? 音感? みたいなものが、良くも悪くも固いです。だから、私は小説というより、岩波や中公新書や、解説書を読んでいるような気分でした。それでも、大半の作品が後半で、激しく動きだし、意外な展開になるのは、本当に、私の予想を超えていて、こういうストーリー展開もありなのか! と、目から鱗が落ちましたね。
 それから、これは私の一方的な好みですが、作品中で「無想の抜刀術」が、浮いているように思います。これが唯一、直家の変則的一人称ゆえなのですけれども、たとえば、直家が弟や息子に語るとか、そういう形にできなかったのでしょうか。
 もう一つ、不満なところは、直臣や敵もそうですが、直家本人も、いかにも彼らしい、凡人とは異なる雰囲気、容姿といった、外見上の描写が物足りません。普通に病に伏せる人、余命いくばくもない男性という感じですね。
 ラスト残念な部分は、先妻と娘三人は、自決、発狂という、悲惨な末路をたどりました。なぜ、このような非道な策略を続けるようになったのか。また、直家の部下は、戦にも暗殺にも秀でています。どうやって、直家は彼らを見出し、育て上げたのか。部下達は直家に、どんな気持ちでいたのか。心酔していたのか、不満はなかったのか。
 と、スタンダードな関心には、あまり応えていてくれてないように思います。心をざわつかせ、宇喜多直家に対する好奇心、探求心を駆り立ててはくれるものの、物足りなかったです。
 しかし、ピカレスク小説は難しいですが、一気に読ませてくれる魅力は立派なものです。また、機会があり、興味を引く内容のものなら、別の作品も読んでみたいと思います。それでは。

 

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