『〆切本』(左右社)の感想
書籍『〆切本』(左右社)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意下さい。
タイトルのとおり、〆切をテーマとした、アンソロジー本です。漫画が3本、それ以外は散文。エッセイもありますが、小説の後書きっぽいものが多いかな? 樋口収の作品は、研究論文みたいでした。
内容は5部に分かれています。
I 書けぬ、どうしても書けぬ
II 敵か味方か? 編集者
III 〆切なんかこわくない
IV 〆切の効能・効果
V 人生とは、〆切である
各章のタイトルで、あらすじは説明し尽くされているでしょう。
作者は、明治頃から現在までの、有名な作家、著述者の方々です。私は不勉強で、知らない方もいらっしゃいますが。
感想としましては、私は前半、読むのが苦痛でした。Iが一番ページが多いのですが、どなたも、書けない書けないって、ネガティブなのですよね。
今、身内が療養中で、気分が不安定な私としては、「そんなに書けなければ、土下座してあやまって、罰金を払って、作品ごと、作家をやめればいいでしょうが! しょせん、小説家なんて、先生と呼ばれていい気分になって、本屋で自作を見つけて満足して、自分は文壇と日本小説史の重鎮だと勘違いしている、見栄っ張りかい!」と、非常に苛立ちました。実際、もう読むのは、やめようかと思ったほどです。
けれども、漫画作品はテンポよく、「へえ、なるほど。がんばって描いているわけだ」「ほー、〆切って、そういうものか」と感じ、目からうろこの気分になってからは、他の散文も、すいすい読めました。
特に、II以降の編集者のことについては、比較するのも思い上がっていますが、私が以前に同人誌で編集っぽいことをやっていたり、また、原稿を他の作者様から求められたりした時、「ああ、こういうこと、あるある……あったなあ」と、同感し、忘れかけていた心の古傷が、鈍くうずきだしもしましたね(苦笑)。
結論として、〆切を好きな作家様はいないでしょうが、〆切がなければ、名作が生まれません。編集者は、作品ができないと、七転八倒する作家を慰め、あるいは逃走するのを妨害し、なだめすかして、ひたすら作品という名の原稿の束を提出させるのが責務ということなのです。
一番印象に残ったのは、高田宏の「喧嘩 雑誌編集者の立場」でした。戦前は売れっ子作家だった、老人の落魄ぶり。彼を腐敗させたのも、作品が古すぎると言って追い返したのも、編集者であるという恐ろしさ。思い上がった作家、著者の傲慢なふるまいに対する、編集者の憤激のリアルなこと、驚嘆するばかりです。
この作品だけでも、一読する価値はあると思いましたね。お勧めです。それでは。
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