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2021年10月30日 (土)

『アンネの日記 増補新訂版』(アンネ・フランク 深町眞理子=訳 文春文庫)の感想

 書籍『アンネの日記 増補新訂版』(アンネ・フランク 深町眞理子=訳 文春文庫)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 ネタバレといっても、オランダで、ナチスの迫害から逃れるため、隠れ家に移り住んでいた一人のユダヤ人少女の、13~15歳の記録です。
 ユダヤ人迫害の悲惨かつ生々しい見聞もありますが、戦争の激化とともに、食料が質的に悪く(腐っている)、量も不足していきます。
 連合軍の作戦は遅く、爆撃の被害が間近でも。何よりも、狭苦しいアパートというか部屋(それが隠れ家なのですが)に八人も、自由に外へ出入りできず、息をひそめて暮らさなければならない苦労は、とても真似ができませぬ。
 だから、この『アンネの日記』は、すぐれた反戦記録(文学)といえるのですが、アンネは身近な人々への鋭い観察と批判、将来の夢、恋まで、実に多く詳細に書いていますので、特に十代の女性には強い共感を呼ぶと思います。
 私も学生時代に読んだことがあり、今だったら、どんなふうに感じるかなと好奇心半分で、読んでみたわけです。

 恐らく、私が最初に読んだのは、皆藤孝蔵氏が翻訳したものだったと思われます。では、この増補新訂版との違いというと。
 父のオットー氏が、アンネの、母に対する辛辣な意見と性に関する部分を削除したのが、従来の日記だったそうですが、今回は漏れなく付け加え、完全版や英訳版の不適切な箇所を修正したものだとか。もっとくわしく知りたい方は、あとがきを読んでみてください。
 さらに、この日記は、アンネが戦後に発表するつもりで書いており(「この本について」より)、同居していたファン・ダーン一家やデュッセル医師が、実は変名であったと知って、私は驚きました。
 そこで、加筆分はどうなのかなと、私は期待と不安半分ずつで読んでみましたよ。
 すごかったです! 私が忘れていただけなのかもしれませんが、母親の悪口以外に、クラスメイトからファン・ダーン夫人、父、姉、やがて恋し合うペーターにまで、実に辛辣で手厳しい!
 これらの表現に、私的には一番、ショックを受けました。
 きっと、私がアンネのクラスメイトの一人だったら、「M・Kは、クラスでいちばん何を考えているか、わからない子です。本が大好きで、休憩時間も読書にふけって、一人で笑ったり涙ぐんだり。運動はまったくできません。陰気で無口ですが、私が本のことを質問したら、うれしそうに話しました。そばにいると、こちらの気が滅入りそうで、とてもうっとうしい子です」とか、評価されるに違いないです。
 こいつ、何様だ? と、切れたくもなりますが、一読していただければわかるように、実に論理的に書かれ、ちゃんと自己反省の箇所もありますから、返せませぬ! ちょっとくやしい!
 逆に、母への批判が、「いなくてもいい」「マルゴーより、ひいきしている」程度で、私はもっと、殺してやりたいとか、死んでしまえなどを予想していたので、あれっ? と、拍子抜けしました。
 やはり、オットー氏が父親として、耐えられなかったのでしょうかね。
 もう一つ、仰天したのが、性に関する箇所。幼い頃の空想から、鏡でも使って自分の性器を観察したらしい表現が、大胆にリアルでした。
 そのようなわけで、今の私は、もっとこの本に嫌いな部分を見出して、辛辣に評価するだろうと予想したのですが、いつの間にか、かなり長い作品だし、展開を知っていたはずなのに、夢中になって読了してしまいました。
 やはり、『アンネの日記』はよいです。読書好きの十代と、乙女心を刺激し、恋や批評眼について賛同し、時には反発し、わくわくせずにはいられませぬ。
 惜しむらくは、こちらは日記そのものに重点を置いており、ナチスに連行後の、隠れ家の住人達とアンネ自身の痛ましい経緯、その最期にあまり言及されていないことです。
 反戦記録として見るならば、旧版の、アンネが皆と引き離され、マルゴーと二人きりになって、劣悪なベルゲン・ベルゼンの収容所にいても、そのギリギリまで希望を失わなかったことと、他の収容者の証言は、とても心動かされるものでした。
 いつか、私は、ひめゆりの塔に花をささげたいと思っていますが、アンネのいた隠れ家にも行きたいです。そう決心させるほどの名作で、お勧めです。それでは。
 

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