『楽しき熱帯』(奥本大三郎・集英社)の感想
書籍『楽しき熱帯』(奥本大三郎・集英社)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
この本の簡単なあらすじは、作者様のブラジル昆虫採集記録と、アマゾン川流域旅行記及びエッセイです。
ゆえに、虫、特に蝶類が嫌いな方にはお勧めできません。反面、文章の表現的には文句はないのですが、そのような飛び回る宝石のような南米の蝶の美麗なカラー写真など、一枚でも載せてほしかったなあと思いました。
最初、私は、開高健の『オーパ!』のような作品を予想していたのですが、作者様は蝶の採集にとどまらず、その標本の購入、新鮮な刺身が食べたくなって、釣りを始めたり、木々を伐採してみたり、さらにはインディオに関する記録にまで言及するという、奥深い内容でした。
作者様の好奇心の強さや行動力には、脱帽させられる思いでしたが、特に、博覧強記ぶりには精神的土下座をせざるを得ませぬ。
この作品のタイトルは、名著(私は知りませんが。ごめんなさい)『悲しき熱帯』に由来するものですが、ユニークなエピソードに心がなごんでいたら、最後の章の、スペイン人のインディオに対する虐殺、残虐行為は、背筋が寒くなるのを覚えました。
私はキリスト教の知識、価値観にうとい者ですが、信者でない者、いわゆる未開の地に住む人々に、どうして、あれほどむごいことができるのか。アマゾンのピラーニャよりも、人間の方が、はるかに恐ろしいというわけです。
もう一つ、イソップ寓話のアリとキリギリスのお話で、アリが正しいことにされていますが、それは冬のあるヨーロッパの価値観であって、アマゾンのような熱帯においては、キリギリス的生き方こそ推奨されることについては、まさに、目から鱗、でした。
私としても、「東南アジアなどの暑い国の人々は、ダレっとして、怠けてばかりいるようだけれど、がんばり過ぎると熱中症になるからかな」程度のことしか考えておりませんでした。
色彩豊かで種類豊富な、動植物の宝庫っぽい熱帯は、その日その日をほどほどにセーブしておかないと、生きていけないというわけです。
読みやすさ、引用されている文献の多さなど、私にとっては、本当にいい刺激になる作品でした。また、この作者様の本を読んでみたいと思います。それでは。
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