『旅する力 深夜特急ノート』(沢木耕太郎・新潮社)の感想
書籍『旅する力 深夜特急ノート』(沢木耕太郎・新潮社)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
あらすじというか、内容について簡単に説明いたしますと、サブタイトルのとおり、『深夜特急』の制作秘話&後日談です。
しかしながら、旅をテーマにしたエッセイ集とも読み取れますので、初めての方でも大丈夫だと思います。
今のところ、この作者様の作品で、ハズレを引いたことがありませんけれども、今回も私は脱帽いたしました。
いくつかのお話の中で、印象に残っているものをあげましょう。
作者様が小学三年生か四年生だった頃の、初めての一人旅のお話。百貨店へ行った友達を追いかけて、驚かせるつもりが、結果的に冒険譚になったわけです。あいにく、友達に会えませんでしたが、一人で、小倉アイスキャンデーを食べながら、近所には決してない、様々な商品が並べられた通りを、心ゆくまで歩き続ける。もう、一人旅のエッセンスを味わっていますね。
『深夜特急』が映像化されるのとほぼ同時に、同じコースを、猿岩石が同じように、費用を切り詰めながら、ヒッチハイク等で旅をする番組シリーズが始まってしまいます。
作者様は、その最終回を見た後、『深夜特急』の映画制作のスタッフに、猿岩石はすぐ消えて忘れ去られていくと思うよ、と言って慰めたそうです。事実、そのとおりになりました。
確かに、ヤラセは、まずいです。が、これほど辛辣な作者様の言葉は初めてだったので、私は驚きましたね。文章自体は淡々としていますけれども、意外と、作者様は激怒していたのでは?
後半、旅の適齢期について述べておられます。金銭的にきつかったり、時間の余裕がなかったりして、長期旅行を延期したり、あきらめたりすることは、誰しも、いろいろな場合でありがちですが、たとえ、お金が足りない、語学ができない状態でも、行くべき時に行かないと、感動が薄まってしまう。
しかも、旅の適齢期は、若い方がいいようでも、ある程度の経験も必要。二十代には二十代の、五十代には五十代の、各自にふさわしい、より良い旅の味わい方があるのだ、と。
私の説明では、これが限界。思うこと、ツッコミなんて、思い浮かびませぬ。もう、精神的土下座、それだけです。
やはり、旅は人生のようなものであり、人生は旅に似ているのですね。
それから、『深夜特急』のタイトルが、私が知っている映画で、何となくエロくて記憶に残っていた作品からつけられていていたことにも、少し驚きました。
あの映画は逃げ出すストーリーだから、『深夜特急』は日常から逃れて冒険するという意味だと、思っていましたよ(笑)。
最後に、引用されているあとがきと。終章のラスト近くで繰り返されている、言葉を挙げましょう。
恐れずに。
しかし、気をつけて。
『深夜特急』ファンの方、旅をしたい方、いつか旅に出たいと希望している方、空想の旅を楽しんでいる方、そういう皆様にお勧めいたします。それでは。
ご協力お願いします。
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