『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』(中島らも・集英社文庫)の感想
『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』(中島らも・集英社文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
私はこの作者様の作品が好きなので、久しぶりに読んでみましたが、やっぱり、おもしろかったです。
内容&あらすじを紹介いたしますと、作者様が、かの超有名進学校、灘校ですごした日々と、浪人時代、大阪芸術大学での生活をつづったエッセイです。
しかしながら、時代は60年代後半から70年代で、学生運動が活発ですから、作者様ものんびりしていられません。
トップクラスで灘高に入学したのに、個性的な学友と時代に翻弄されて、成績は、あれよあれよで、どん底に。
浪人で勉強どころか、怪しげな喫茶店に入り浸り。
入学できる大学がないと、慌てて、大阪芸術大学にすべりこんだはいいけれども、やりたいことが見つからない、奇妙な不完全燃焼状態になりながらも、学生結婚をし、辛うじて就職、というところで終わっています。
「あとがき」で、作者様が述べておられるとおり、この作品は、前半の大笑いしそうな奇想天外な明るさが、後半、なぜ? と、首をかしげたくなるほど暗く、深刻な雰囲気になります。
いわゆる学生時代というのは、明るく楽しく、思い出深いはずなのに。「モラトリアムの闇」という、1~7まで続く長い章で、その悶々とした心の内が語られています。
私としては、一番印象に残ったのは、前半の「第二章 タナトス号に乗って」の後半を占めている、「飲酒自殺の手引き」1~5です。高校時代、興味本位で始めた飲酒が、破滅的依存症へなっていく過程、その気持ちの変化は、なかなか怖いを通り越して、絶句もの。そんな病人だか患者を前にして、冷徹な医師の言動など、すさまじいリアリティーを感じさせてくれました。
私はアルコール不耐症なのですが、それがよかったかもしれないと、思わせてくれました。
あと、他の地方の方にとっては、作者様や他の登場人物が話す言葉は、「関西」なのでしょうが、関西人には、神戸、もしくは兵庫県の物語だと、感じるものがあります。良くも悪くも、生々しくはあっても、大阪的な泥臭さがなく、プライドが高くて、異国的雰囲気がありますね。
少し似ている作風としては、久坂葉子を連想させます。
そして、二人とも、早くに亡くなるって、残念過ぎる(泣)!
おもしろくて、怖いエッセイといえます。お勧めいたします。それでは。
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