『楠勝平作品集 彩雪に舞う……』(青林工藝舎)の感想(続き)
漫画作品集『楠勝平作品集 彩雪に舞う……』(青林工藝舎)の感想の続き、参ります。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
「名刀」、火事か台風のような大災害の後、身分、年齢、性別ばらばらな老若男女が一カ所に集まります。その中に、名刀所持を誇りにする老武士がいましたが、ある少年は彼を小ばかにした態度を取り……。庶民が武士に勝った? 最初から、飛ばしてくれますね。
「ぼろぼろぼろ」、「自殺へのすすめ」というサブタイトルつきの、短期集中連載だったらしい、8回の続き物。主人公は、盲目になって9年の、あんまの享さん。時々、姉の世話をうけながらも、彼の周りは死の影がただよいます。生活に不自由はしないけれども、咳がひどくて、武士の誇りだけをよりどころにする田村は、罪のない浪人を斬殺し、酒乱気味の大工は自殺未遂から……。身体障害の差別的な表現もありますし、相当暗いお話です。それでも生きる、是が非でも生き続ける人もいれば、耐えきれない人もいる。どん底の人間の悲しさをうたっているのでしょうか。
「おせん」、これは漫画アンソロジー本でも読んだことのある、作者様の代表作です。貧乏だけれども、気立てがよくて明るいおせんは、大工の青年と恋仲になりますが、高額な花瓶を壊したことで、態度が豹変。青年は幻滅するものの、彼のおじは……。とにかく、花瓶を割る前までの、おせんの言動が愛らしいです。これまた、謎のラストです。おせんに救いがあるのでしょうか。二人はまた、結ばれるのでしょうか。私は、そうであってほしいと、願っていますが。
「蝶を見た!」、手代と大店の一人娘が駆け落ちをし、山奥で不自由ながらも、一緒に暮らし始めますが……。作者様には珍しく、色っぽい描写があるなあと思ったら、「原作:岩崎稔」とありました。
「しまい風呂」、現代物で、男湯の中で、おもしろおかしく話をする、公蔵や高石のエピソード。シンプル表現ながらも、男達の股間がバッチリ描かれています。色っぽくて笑える物語かと思いきや、ラストの人生の悲哀と孤独が、胸にしみます。しまい風呂とは、銭湯の営業終了間際の風呂ではなく、そういう意味だったのです。
「大部屋」、現代物。男性用の大部屋に入院している人々の、それぞれの価値観、人生模様を描いています。この時代、大部屋でも仕切りがなかったのですね。だから、皆、疑似家族っぽい雰囲気であり、死が間近に存在していて、怖くて切なくて、辛くなります。
「彩雪に舞う……」、祖母と二人暮らしの少年、左衛門は、病に伏してしまいます。一人きりの彼は、庭先で舞い遊ぶ鳥達の様子を見、落語のような、おもしろおかしいセリフをつけて遊びます。季節は秋から冬となり、左衛門の病は進行し、鳥達の数も少なくなります。左衛門は苦しみの中で、ある一羽の鳥に託して、空を飛ぶ秘訣を語ります。病気の苦しさ、一人ぼっちの病床の表現が、今まで読んだ漫画の中で、もっともリアルでした。けれども、こちらは救いのある結末だと思います。
ちくま文庫でも、作者様の作品集があるそうです。また見つけられたら、読んでみようと思います。確かに、暗い雰囲気がただよう作風ながらも、強烈な印象を残す、純文学的な漫画です。お勧めいたします。それでは。
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