『愛と死の詩』(永島慎二・朝日ソノラマ)の感想
コミック『愛と死の詩』(永島慎二・朝日ソノラマ)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
こちらは、短編漫画集です。作者様は、タイトル付けが上手ですから(例えば、『心の森に花の咲く』など)、心惹かれたのですけれども、今回は今一歩でした。ネタや結末が読める作品が、あったからでしょうかね。
では、掲載順に、簡単に内容と感想を挙げていきます。
「マルマル食堂の午後」、ある日、実直なオヤジのいる食堂を、二人の謎めいた男が占拠します。彼らの目的は? 緊迫感は存分にありますが、救いのない、悲しいお話です。
「死神」、やくざの青年、五郎が、盗みを働いた少女と知り合います。少女の境遇に同情した五郎でしたが、街角で出会った死神から、彼女と口をきかないよう、助言されますが……。これまた、救いのない話その2。死神はストーリー上、必要なのでしょうか。何よりも、作者様好みらしい、メンヘラ気味(純情可憐と言うべきでしょうが、私は、ひね紅林ですので)美少女の悲劇には、私的にうっとうしいです。
「友情」、絵描きの青年大助と、サンドイッチマンをしながら絵を描いている中年男、源太郎。二人はアパートの隣同士でしたが、思いがけず、大助が体調を崩してしまい……。お話の流れは、О・ヘンリーの有名作品と同じですが、なかなか絵描きとしての芽が出ない、五郎の鬱屈した気持ち、新宿の風俗や人々が描かれていて、なかなか味わい深いです。
「完全犯罪」、ことわざをショートショートの漫画にしたのでしょうかね。実際に、不可能だと思います。
「春」、私が一番好きな作品です。青年、しげるは、漫画家になるべく、印刷屋を辞め、実家を出て一人暮らしをしながら、描き続けますが、思うようになりません。母や義兄は、あきらめるように、さとすのですが、それもできないまま。創作の苦悩や焦りが、身につまされる感じです。もしかして、作者様の代表作、『漫画家残酷物語』の先駆になるのでしょうか。
「愛と死の詩」、表題作で、表紙イラストを見ていると、恋愛物のようですが、老刑事の境と、その娘の道子、道子の婚約者、秋文の物語です。道子が難病であることが判明し、大金が必要となります。道子を案じるあまり、秋文は、アウトローの世界に足を踏み入れ、犯罪までも行ないます。秋文を追う境。やがて、悲しすぎる結末に。救いのない話、その3です。けれども、冒頭の詩、自分の顔について語る、境のモノローグ、ラストの切ないナレーションが、美しいです。暗い短編集と、一言で片づけるには惜しいと、思います。薄っぺらなハッピーエンドではなく、成熟した、リアルでビターな人生の一ページを味わいたい方にお勧めいたします。それでは。
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