『吉村昭の平家物語』(講談社文庫)の感想
『吉村昭の平家物語』(講談社文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
他に、注意事項として、今回の感想は、かなり辛辣です。日本文学と平家物語に強い思い入れがあって、それを批判するのは許せないという方は、絶対にお勧めできません。そのため、コメントは受け付けない設定にいたしました。ご了承ください。
あらすじは、もう説明するまでもありませんね。
私は学生時代、この平家物語の原書をテキストとして学習しましたが、どうにもこうにも退屈で、腹立たしくてなりませんでした。
いい加減に内容もうろ覚えになっているし、名著として評判のいいこの本なら、きっと感動できるだろうと期待したのですが。
駄目でした(泣)。
それでは、いただけない点から参りましょう。
1.戦記物としてなら、超退屈。
三国志演義や太平記の方が、はるかにおもしろいです。
前者は、主人公のライバルさえ、何度も命の危機におちいりながら、復活しています。後者は、南朝寄りですが、どちら側にも人格者や問題ある人物、見事な策略を描いています。
ところが、平家物語では、義経は奇襲ばかりだし、それならば、平家側にも対策があろうはずなのに、どちらも何をしていたのやら。
2.仏教を持ち出して、自殺を美化するな!
壇ノ浦で、負けた平家側の入水なら、わかります。一族と自らの名を惜しみ、敵に捕らわれて、あざけられたくなかったからですよね。
しかし、小宰相や維盛の脆弱さには、うんざりいたしました。
念仏は、極楽へ向かうための方便ではありませぬ。
3.原作者のえこひいきが激しい。
木曽義仲は、ろくな着こなしもできないと、ボロクソに描かれ、小宰相、安徳天皇などの幼い人々は、愛らしく美しく利発で、その最期も克明。読者を泣かせよう、という意図がありすぎて、私は引いてしまいました。
よい点については。
1.木曽義仲が人格者であったことなど、あらためて知った。
子供向けのダイジェスト版でも、彼は無知で粗野に描かれていたように思いますが(少なくとも、私の読んだものでは)、こんなに家来を思いやり、また慕われている武将だとは思いませんでした。
そして、私の一番好きな平知盛は、やっぱり好男子でした。
2.それぞれの戦いの描写が、知っていても、やはりダイナミック。
壇ノ浦は、言うまでもありません。
「見るべきものは、みな見とどけた」という知盛の言葉は、名言だと思います。
現代語訳の吉村昭ですが、私は初めて読ませてもらいました。
語尾が過去形ばかりになっていますけれども、すらすら読めて、いい訳し方をなさっていると、思います。
また、他の作品を読んでみたくなりました。
このようなわけで、現代語訳された平家物語も、私は受け付けられませんでしたが、他の作家のものも、機会があれば読んでみたいです。
実は私、平家物語に、どうにも自分では受け入れられないところがあるのは理解しましたが、二度と読みたくないわけではないのです。
例えば、終始悪役として描かれる清盛ですが、才能や人的魅力がなければ、トップにはなれません。
原作者が意図的か、あるいは無意識に隠した部分を、歴史書や現代の解説書から読み解いていけば、もっとおもしろくなりそうです。
とにかく、激しい拒否反応は起きましたが、古典の学習、再認識という意味で、非常にためになりましたね。
その意味で、原作者様と吉村昭さんに感謝しております。一読の価値ありです。お勧めいたします。それでは。
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