『夢喰見聞』全9巻・『夢喰見聞 妄鏡堂』(真柴真 スクウェア・エニックス)の感想(追記)
前回の感想は、ちと不親切仕様でしたので、追記いたします。
私の一番気に入っている、作中の登場人物は、2巻の「第拾弐夜 獏」でデビューする、三角一二三(みすみ ひふみ)です。成金でまわりから高等遊民と呼ばれている、チャラい外見の青年で、霧霞に一目惚れして銀星館の下宿人になりました。一方的に蛭孤を恋のライバル認定して張り合いもしますが、人外の彼と普通に会話し、世話を焼くこともある、意外と面倒見が良くて常識人であるところがいい、と思います。
それでは、お気に入りのお話をいくつか挙げます。
第壱夜 下り階段(1巻)
いわゆる一発目から、びっくり仰天のお話でした。一人きりで死んでいる「お嬢様」を思いやる、純粋な少年。彼の見る悪夢は不可解でしたが、彼自身も人でなく、名前さえもない存在だったという……。彼の願いはかなえられましたが、不思議な寂寥感が残りました。
第伍夜 文字(1巻)
作者様もお気に入りのお話だそうです。
十年前、父を殺したのではないかと、悩む少年。寸前の記憶がなく、父の命日のたびに、現場だった蔵の中の物が、文字に変じてしまい、特に、父の字に押さえつけられて動けない。そのわけは……というお話。不気味なビジュアルに反して、心温まる結末だったのが、実に意外でした。他にも、ヒントになった鼠がかわいいです。
第拾夜 油絵(前編)・第拾壱夜 油絵(後編)(2巻)
駆け出しの画家、阿久雄の恋人、ルミは、戦争から帰らない彼を待つうちに、彼の油絵の中に入ろうという妄想に取り憑かれ、妄鏡堂へ。念願かなって、絵の中に入れましたが、ルミ自身は木炭の棒人間に変わってしまいます。そして、やっと阿久雄が戻ってきますが、悪夢の中で会ったルミを彼女と認めようとせず、冷たく拒絶。ルミは泣きながら、自分の涙で溶けていきますが……。阿久雄に会いたいが、棒人間のままでは辛い、悲しくても泣けないという、ルミの苦悩が痛ましく、それでいながら、ちゃんと救いのある結末です。永遠とは、絵の中で時を止めることなのですね。
第拾参夜 カゴメ(2巻)
悪夢の相談に訪れた、一二三そっくりで名前も同じ少年。彼は、カゴメの遊びをしているうちに、友達やじいちゃんが化け物に食われていく悪夢に悩まされていたのですが、彼と友達の実態、そして、じいちゃんの行方は……。これまた、不気味なはずなのに、ちゃんと救われて、けれども血生臭いという不思議な読後感でした。
第拾八夜 文章(3巻)
作家、有働は小説のイメージを夢の中で文章として生じさせ、目覚めてはそれを書いていたのですが、最終章の結末がもつれる悪夢で不可能になりました。それは単なる記憶のもつれではなく、重大な真実、彼の罪が隠れていたのでした。実際に、文章が描かれていて、凝った構成です。加えて、ダークな結末でした。
第拾九夜 面(3巻)
将来は軍人になるため、感情を出すことを禁じられてきた少年、磯部は、表情が出せなくなり、悪夢の中で、顔にいくつも面がはりついてしまいます。それをはがし続けるうちに、彼は……。彼女のためにと思ってやったことが、絶望的な結末を暗示させます。多くの面がある悪夢から、彼女の切々として手紙と、ダークから哀切へと、ストーリーが変化していくのが見事でした。それでは。
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