『夢喰見聞』全9巻・『夢喰見聞 妄鏡堂』(真柴真 スクウェア・エニックス)の感想
コミックス『夢喰見聞』全9巻とその外伝『夢喰見聞 妄鏡堂』(真柴真 スクウェア・エニックス)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
ジャンル的には、伝記というより、怪奇幻想でしょうか。いくつかの部分は首をひねりましたが、まず、おもしろく読めました。
時代は大正末期で、舞台は関東大震災の記憶が生々しい帝都の一角にある、喫茶「銀星館」。そこを経営する少女、霧霞(みづき)とともにいる、悪夢を糧に生きる「獏(ばく)」の蛭孤(ひるこ)。一見、風変わりな少年の外見ながらも、悪夢に悩む来訪者の相談に応じて、その夢の中に入って解決し、代償として、悪夢を小さな玉状にしてもらい受け、食べてしまいます。依頼人は老若男女さまざまであるどころか、人でない存在もいますし、秘密の願望や恋、犯罪まであって、おどろおどろしい世界なのですが、蛭孤としては、「さあ眠れ しばし現(うつつ)にお別れだ」と、声をかけて依頼人を眠らせ。
「血染めの悪夢は 特に美味いんだ」
「尤も僕は悪夢を喰えるなら それに越した事ないけどね」
などと、言うのでした。
2巻以降、騒々しい下宿人、一二三、妄想に憑かれた者が訪れる妄鏡堂の主人の戒吏と使用人(?)のシマ、温厚そうな外見でありながら残忍な性格の獏の月白、霧霞の兄で先代の獏、梓など、個性的な人物達も加わっていきます。そして、蛭孤が人間だった頃の凄惨な過去と、彼が対峙する悪夢等々。
ほぼ一話完結ですけれども、前後編にわたるお話もいくつかあり、最終の9巻は、蛭孤自身の悪夢をめぐって、蛭孤の過去を知っているらしい少女、神志名が現われ、月白、梓が暗躍するというもの。
こうやって説明すると、まさに怪奇で猟奇、純愛であるかと思えば、皮肉な結末になることもありで、ストーリー的には、おもしろかったのですが。
ただ、いくつかの点については、どうも納得できず、熱中できなかったのは事実です。そのことについて、次に挙げましょう。
1.設定の部分で、不可解なところがあります。
私は快眠する方なので、そもそも、悪夢に悩むというのが、よくわかりませんでした。夢とは怖いものであっても、物語的であったり、未来予知的であったりするから、興味深いと思うのですが。それよりも、「悪夢を恐れて眠れない」というふうだったら、納得できたのでしょうね。
獏だから、蛭孤が夢の中に入れるのは、理解できます。けれども、夢の中の事物を触れたり、時には眼球を入れ直したりというのは、仰天しました。夢は、幻というか、脳内イマジネーションのはずなのですが。
妄想を愛するという、戒吏。妄想って、超ご都合主義で、自分最高! のものばかり。そんなものを、どうやって好きになれるのでしょう?
2.ストーリー展開的に、ムラがあります。
1~3巻あたりは、文句なしにおもしろく、呆気に取られたり、泣きそうにしました。
4~8巻は、良くも悪くも、幕の内弁当みたいになってきています。おもしろいのですが、ダークな部分と意外性が今一歩。
9巻は、蛭孤=千寿が気の毒で仕方がありません。ですが、セリフでの説明が多すぎるのでは?
妄鏡堂は、正直、小説は不要です。これなら、作者様に、特別編かギャグを描いてほしかったです。夢喰見聞以前の原点となるお話なので、舞台が現代で、シマが志摩という少女であることなどは異なりますが、パラドックス的ないいお話だと思います。ただし、怪奇要素は少なめです。
以上、このような感じです。
漫画表現としては、いくつか、目を見張るようなものがあります。私の不満な部分は、設定だけなのですよね。惜しいなあ。
そういうわけで、人を選ぶ作品ですが、魅力は充分です。それでは。
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